2022.02.28
恋に落ちると、理性や常識を失ってしまう…。
「恋は盲目」状態になると、人は時に信じられない行動に出る。
あなたはそんな経験をしたことがありますか…?
これはそんな男女の、複雑怪奇な愛の話。
第一話:「リピート」
「広沢先生に刑事事件を頼みたい方がいます」
有楽町にある法律事務所で仕事をしていた僕は、秘書の小山杏奈から手渡された書類を、思わず二度見してしまった。
― 伊集院美麗って、依頼人の名前?なんだか芸名みたいだな。
「今回も男女問題のもつれでしょうね。メディアの効果ってすごいわ」
昼休みから帰ってきた杏奈がコーヒーを口に含みながら、書類を覗き込む。
弁護士2年目で今年31歳になる僕は、テレビ局に勤める大学時代の友人に懇願され、男女の法律トラブルを解決する番組に“イケメン弁護士”として渋々ゲスト出演した。
それからというもの、男女問題で悩む女性からの依頼が後を絶たないのだ。
「…嫉妬してる?」
「そんなわけないでしょ。依頼人と恋愛関係になるような弁護士が彼氏だなんて、こっちから願い下げです」
杏奈と僕は、付き合って1年半になる。もうすぐ婚約予定だが、そのことは事務所のメンバーにはまだ内緒だ。
そして翌日。僕は依頼人である“伊集院美麗”へ会いに、渋谷署へと向かった。
何度も訪れている、青山通りと明治通りの交差点に立つ渋谷署。入口に立つ警備員に一礼すると、警察官の案内で薄暗い接見室に入る。
「入りなさい」
警官の声が聞こえた直後、アクリル板の向こう側に、ブラウンの髪を1つに結った女性が入室してきた。うつむきがちだったが、椅子に座るとゆっくり顔を上げる。
…その瞬間、僕はハッと息をのんだ。
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