ニューノーマルな男と女 Vol.2

コロナ禍でハワイ挙式を夢見る花嫁。絶望する彼女を襲う更なる不運とは…

気がつけば、梢は近くの総合病院のベッドの上だった。

見守ってくれていた看護師さんに聞くところによると、貧血の立ちくらみということだ。その日は生理中。梢は、以前から重い症状に悩まされていた。

搬送された病院は梢のかかりつけでもあったため、念のため診察してもらうと、エコー検査をした際、医師にこんなことを言われた。

「前来たときより子宮筋腫が大きくなっていますね。妊娠を考えているなら、早めをお勧めします。手術や異常分娩の原因になる可能性もありますから」

「え…」

医師いわく、現在は様子見可能だが、増大のペースが速く、念のための忠告だという。いつまでなら大丈夫かは、当然ながらはっきりとは言えないそうだ。

7月の東京オリンピックでさえ、開催か中止か議論されている昨今。

突然、感染症が終息したとしても理想の式をあげるならば、半年以上先になるだろう。よくて1年後だ。

それから妊活して、大丈夫なのか…。

悩んでいると、正尚が病院に迎えに来てくれた。不安そうな梢の顔に、彼も神妙な面持ちになる。

「どうした?」

梢は病室のベッドの上で彼の手を握り、医師から言われたことを告げた。

― 彼なら、きっと自分の味方になってくれる。

私が満足した式を挙げるために待つことを肯定してくれるだろう。「そんなの大丈夫」と、答えてくれるだろう…。そう、梢は思っていた。

だが、彼ははっきりと即答したのだった。

「お医者さんの言う通り、すぐにでも子どものこと、考えようか」

「どうして…」

梢は正尚の反対意見を聞くのは初めてだった。まず、その事実に驚愕する。

「願いを叶えてあげたいけど、式が終わったあとも僕たちの人生は続くんだ。君も子どもが欲しいんだろう?今はこんな時期だからこそ、できることからはじめようよ」

「でも、結婚式あげるのは私の夢で…」

「夢以外に、ほかの理由はあるの?」

梢は口ごもる。そう言われると、特にない。

あるとすれば、自分の夢を100%考えてくれる素敵な夫を、友人たちに紹介したいということや、幸せな自分をアピールしたいということくらいだ。

「自分は、梢と明るい家庭を作って、いつまでも幸せでいることが夢なんだ」

正尚は震える梢を優しく抱きしめた。

彼の大きな腕の中で、頑なだった心がほぐされていく。自分を大切に想ってくれる人がいることを実感する。それ以外に何が必要なのか。

― 幸せは、この胸の温かさで十分なのかも…。

梢は自分の夢より、正尚の夢を叶えてあげたいと心から思った。

今まで、梢のすべての夢を叶えてくれたお返しに…。


8ヶ月後。都内のフォトスタジオには、ウエディングドレス姿の梢がいた。

隣にいるのは、もちろん正尚。未だ終息が見えないこの状況の中で、写真だけの結婚式をすることにしたのだ。

「気をつけてね。1人だけの身体じゃないんだから」

梢の腰に優しく手を添える正尚。子どもを授かり、少々ふっくらした梢。

ゆったりめのドレスに身を包んだ彼女は、豪華なドレスに身を包まずとも満面の笑顔であった。


▶前回:同期入社の女友達に絶賛片思い中の男。出社制限で会えない間、彼女はまさかの行動に…

▶Next:11月10日 水曜更新予定
コロナ禍でサプライズ誕生会の計画。反対した女がうけた仕打ちとは…

東レデート詳細はこちら >

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
梢が正尚を選んだのは、憧れの結婚式を実現させてくれそうだったから。
それだけ?

夢のような披露宴とタヒチへのハネムーンを叶えてくれそうな人だからと結婚したのに、半年もしないうちに離婚した人を知っている🤣
2021/11/03 05:3576返信2件
No Name
最後の方ちょっとよく分からなかった。
子宮筋腫が大きくなってきているので切除する手術をするかどうかの話かと思ったけど。すぐにでも子供のことを考えようって…
1人産んたら子宮全摘する方向?な訳ないよね。パンデミックで夢の結婚式を断念せざるを得なかった内容は分かるけど。
2021/11/03 05:3062返信7件
No Name
真紀ってあの真紀?
ヴァイオリニストの。
2021/11/03 05:3234返信6件
もっと見る ( 35 件 )

【ニューノーマルな男と女】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo