東京ワーママ戦線 Vol.2

「夜のお誘いは無理…」東京で独身を謳歌していた女が、“母”として送る一通の苦悩LINE

その後も、翠は寝る間を惜しんで保活をした。

インターネットでの情報収集、区役所で応募状況の確認、すべての園の見学…やることは山ほどある。家から通えてアレルギー対応してくれる園は、なかなか見つからない。

保活がうまく進まない翠は、またしても孤独を感じていた。

―誰も味方がいない…。

ふとそんな気持ちが襲ってきた。実家から離れ、夫の大樹ともゆっくり話せない状況も、追い打ちをかけて翠を孤独にさせるのだった。

妊娠したときは、周囲の皆に心から祝福されていると感じた。なのに子どもを産んで社会に戻ることは、あまりにもハードルが高い。

だが隣で眠る颯太の横顔を眺めていると、こう思い直すのであった。

――颯太のためだもの、こんな弱気になっちゃダメだよね。この子を幸せにして、仕事もできるように頑張ろう。


ピンポン―。

ある日の午後、マンションのチャイムが鳴りモニターを確認してみると、そこには会社の先輩ママである池田絵里の姿があった。

絵里は2人の子を持つワーママで、入社当時からお世話になっている。

「翠ちゃん、久しぶり!仕事で偶然近くを通りかかったから寄ってみたの。子育てどう?忙しい??」
「絵里さん…!ありがとうございます!ちょっと散らかってるけど、入ってください」

麻のスーツを着て、にっこり微笑む絵里はそれだけで眩しく見えた。昔から面倒見のいい性格で、信頼している先輩だ。「突然お邪魔したのに申し訳ない」と恐縮する絵里を喜んで迎え入れ、近況を報告し合う。

保活がなかなかうまくいかない状況を訴えると、絵里はこんなアドバイスをしてくれた。

「認可の保育園ばかりに目が行きがちだけど、最初から認可外狙いでもいいと思うの。点数稼ぎもしなくていいし、申し込みさえできれば後が楽だから」

絵里の言葉は、目から鱗だった。認可外保育園なら先着順のためその場で入園が決定する。

その後は子育ての悩みや会社の噂話など、絵里が持ってきてくれた冷たいゼリーをいただきながら、2人でおしゃべりに興じた。1時間弱という短い時間だったが、翠にとっては大きなリフレッシュとなった。

その後翠は絵里のアドバイス通り認可外に的を絞り、大樹と交代で入園受付に徹夜して並んだ末、やっと入園の切符を手に入れた。

でも、これでようやくスタート地点に立ったばかりだ。

会社に復帰して、すべての試練はこれからやってくる。そんな予感を前に、翠はすでに覚悟を決めようとしていた。



そして職場復帰まで1カ月を切ったある日、不意に同期の健太から連絡がきた。

健太は翠が入社当時に2年ほど付き合っていた元カレで、同期の中ではリーダー的存在である。

―元気?来月から会社来るんだよね。来週、同期で飲み会するからよかったら来なよ。

LINEのメッセージとともに、ジョッキを持った写真が送られてきていた。翠はその写真を見て、相変わらずの健太の様子に、思わずくすりと笑った。別れたあとも仲のいい同期として、何かの折にふと連絡がくるのだ。

もう2年近く、お酒は飲んでいない。颯太にはまだ母乳を与えているから、当然まだ飲むことはできない。

独身の頃、日付が変わったのも気にせずワイワイ飲み歩いていた頃のことを思い出す。仕事や恋愛の話は終わりがなくて、東京の夜はただ楽しく、この日々が永遠に続くような気がしていたのに。

ずいぶんと遠いところに来てしまったように思えた。正直、少し寂しい気持ちがない訳ではない。

―連絡ありがとう!子どもの面倒見なきゃいけないから、夜の飲み会には行けないんだ。復帰したら、またよろしくね。

復帰してもきっと、いつ同期会に行けるかは正直分からない。

健太にそうLINEを返してキッチンに戻り、翠は颯太の離乳食作りを黙々と再開した。

この記事へのコメント

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確かに、颯太君もかわいそう、は意味が分からない。。
2019/08/14 05:0899+返信18件
No Name
でたー!全く子育てに優しくないジャパン🇯🇵
2019/08/14 05:0999+返信18件
No Name
アレルギー対応、こんなに扱いひどくないですよ。アレルギーの子多いですし。そして認可だと、アレルギーの有無で園が人を選べるわけでもなく。そして認可外だからといって簡単に入れるわけでもなく、、人気園は認可外のほうが激戦だったりしますよね〜これから保活のママさんに誤解がないようにと…
2019/08/14 05:1299+返信29件
No Name
ワーママになりたての頃によくある事象。
翠も凛も何だか大人げない。
翠、ママになったら今までのように独身女と同じ目線でいたら、ただただ敵を増やすだけなんだよ。仕方ないけど、今の日本じゃ、ワーママは自身の立ち居振舞いを自己プロデュースしないとやっていけない。
2019/08/14 05:1579返信46件
No Name
ここまでキャリアにこだわってるなら、復帰前に旦那の子育て分担を話し合っとかないと。最近病院にこども連れてきてるお父さんも良く見るし、うちも半分は旦那が保育園からの呼び出しに対応してくれる。勤務初日とか大事な日は旦那が呼び出し担当でいいのよ。そうか協力が見込めないならキャリアをある程度あきらめる。会社よりまずは旦那との話し合って欲しい。女性が頑張りすぎ。
2019/08/14 05:3976返信6件
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