「誠実=結婚向き」は幻想だった…?彼の部屋で見てしまった、マジメ男の本性

「…ああ、いたのか」

奈津美の顔を一瞥し、哲也はそう言ったという。しかも、ため息混じりに。

そしてそのあとは一言も発することなく、疲れ切った表情のまま彼女の手料理を食べたらしい。この夜、奈津美が聞いた哲也の声といえば、時折漏れる大きなため息だけだったという。

「いたのか、って…。ご飯作って待ってるねって伝えてたのに。仕事で何か嫌なことがあったのか、ストレスが溜まってたんでしょうね。でもたとえそうだとしても、わざわざ料理を作って待ってた彼女にこの対応はひどいですよね」

それでも奈津美は、彼の気持ちを理解しようと何度も声をかけたと言う。

「何があったの?嫌なことがあったなら私に話してね、って重くならないように聞いたんです。それでも彼は『いや…』とか『別に』ともごもご呟くだけでした。

口下手で、自分の感情をうまく言葉にできない人なんです。それはわかっていました。だけどこんなあからさまに不機嫌な態度をとるのは、ただのワガママだし、自分勝手な男なんだなって思いました」

結局、哲也はその夜何も話してはくれなかった。

いたたまれなくなった奈津美は深夜に家を飛び出し、それを最後に哲也との連絡を絶ったと言う。

「彼から何度か着信はありましたが、出ませんでした。でも哲也は私の家を知っているし、会いに来ることだってできたはず。それをしないのは所詮その程度だったのか、もしくは彼にその度胸がないのか。どちらかはわかりませんけど」

哲也との一件を語り終えると、奈津美は「ああ、もう」と天を仰いだ。

「哲也の前の元カレは本当に女にだらしなかったけど、私に対して理不尽に怒ったり、不機嫌な態度を取ることはなかった。感情が安定していて、いつも笑ってた。…一体、どちらが結婚向きなんでしょうね?もうよくわからなくなってきました」

そう言って、奈津美は首を振る。

「でも一つだけわかったのは、たとえどれだけ誠実であろうと、自分で自分の機嫌も取れないような男とは一緒になんて暮らせないってことです」

奈津美はきっぱりと言い切った。

▶NEXT:3月26日 火曜更新予定
独身貴族を満喫しすぎた男

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