2019.03.07
噂の女 Vol.1例の女の登場
会場内の雰囲気に飲まれぬよう、一度ゆっくりと深呼吸をする。体中に酸素が巡り渡ったように感じ、先ほどの緊張感が少し和らいだ。
気を落ち着かせ、会場内をぐるりと一周見渡してみる。だが、これだけの人数だ。しかも女性が圧倒的に多く、皆一様に若くて美しい。
ーいくら噂の美女だからと言って、この中から見つけるのは至難の技だな…
それに、彼女が来ている保証もない。僕は受付に戻り、彼女がもう受付を済ませたかどうか確認することにした。
「あの、春瀬紗季という女性が受付を済ませたか確認していただけますか?会場内で会う予定だったんですが、なんせこの人数なので…。連絡も取れなくって…」
不審に思われないよう並べた言葉が、返って言い訳じみて聞こえぬよう平静を装う。
だが、受付の男性は気にする様子もなく「春瀬様…」とタブレットに名前を入力し、名簿を確認してくれた。
「まだのようですね」
男性のその言葉にがっくりとしながら「そうでしたか、ありがとうございます」と慣れた笑顔を作って見せる。
ー開始からもう1時間半も経っているのに…。もしかしたら、今日はもう来ないのだろうか…
そう思い、せっかくだからシャンパンでも頂こうかとドリンクを取りに行った時だった。
パッと見上げた先に、その女性の姿があったのだ。
ーあ…彼女だ。春瀬、紗季だ…。
一瞬であの女だと分かった。
柔らかくアップした髪に、シンプルで艶のある紺色のドレス。体のラインをなぞるようにフィットしたそのドレスは、美しいボディラインを品よく映し出し、紺色のレースから覗いた肌は、その白さが際立っていた。
だが、際立っていたのは見た目だけではない。彼女の放つオーラだった。
僕の仕事は、政治家秘書だ。なので仕事柄、オーラの強い人間に会う機会は多い。この会場にも何人かの著名人がおり、皆キラキラとしたオーラを放っていた。
だが彼らの持つ煌びやかなスター性のあるそれとは違い、彼女には、妖しくどこか危険な香りのするような、だが、心の中核部分を持っていかれるような強い引力があった。このタイプの人間に出会うのは初めてだ。
「あれ、誰だ…?」
どうやらそんな風に思ったのは、僕だけではなかったようだ。
先ほどまでは他の女性に鼻の下を伸ばしていた男性達が、彼女の姿を捉えたかと思うと、そのままうっとりと見惚れているのだった。
僕はハッと我に返り、スーツの内ポケットに入れていたスマホを取り出して画像を確認する。
ーやはり、彼女だ…。
画面に映る春瀬紗季は、確かに綺麗ではあるものの、東京ならいくらでもいそうな女性に見えた。
だが、彼女が噂に聞く女性だということが、この時やっと分かった気がする。
ーなるほどね…。なかなか面白そうな女だな。
僕はネクタイを締め直し、頭の中でどう彼女に声をかけようかとシミュレーションをした。
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