2019.02.12
夫の異変は突然に Vol.2初めて察知した、夫のSOS
「会社、行きたくない…」
雄太はまるで駄々をこねる小学生のように、布団に必死にしがみつきながら、小さな声でそう呟いた。
「え、なに!?」
予想外の言葉に呆気にとられ、あずさは思わず布団を引っ張る力を緩める。夫は何を言っているのだろうか。
「どうしたの?何かあったの?」
優しく聞き返しても、雄太は何か反応するわけでもなく布団の中でモゾモゾしているだけだ。家を出る時間が刻一刻と迫っていた。
「ねえ、いい加減にしてよ!」
辛抱強く待っていても埒が明かない。あずさは布団を思い切り引き剥がし、雄太に向かって怒鳴ってしまう。
しかし、雄太は小声でぼそりと呟いた。
「…疲れた」
静まり返る空気の中で、あずさはそのとき初めて、夫の非常事態を察知したのだった。
◆
会社に向かう電車の中で、あずさは不安に襲われていた。
雄太が何か重篤な病に侵されているのではないかという考えが頭をよぎったのだ。
あずさが知る限り、風邪をひくこともなければ弱音を吐くこともない雄太が、仕事に行けないほどになっている。あんな無気力な夫の姿を見たのも初めてだ。
美奈とのランチを終え、化粧室でメイク直しをしていると、あずさのスマホが鳴った。
「誰だろう…?」
画面に目をやると、見知らぬ番号が表示されている。番号から推測するに、東京都内の固定電話からだ。おそるおそる通話ボタンを押した。
「もしもし…?」
「突然のお電話申し訳ありません。和田雄太さんの奥様の携帯でよろしいでしょうか?私、和田さんの勤務先の人事部の、松野と申します」
あずさの心臓が、ドクンと大きな音を立てた。周囲に話を聞かれないよう、慌てて非常階段に移動する。
もしかして、雄太の身に何かあったのだろうか?
「はい、和田の妻です。主人がいつもお世話になっております…」
松野は「お世話になっております」と言った後、落ち着いた声で続けた。
「和田さん、昨日から会社をお休みされているようなのですが。その件で」
「えっ…」
松野によると、雄太は昨日電話で休むという連絡を入れたが、今朝は何の連絡もなく、何度電話してもつながらないという。万が一を心配してあずさに電話したとのことだった。
ーあのあとやっぱり、ゆうちゃん会社に行かなかったんだ…。
ランチに出る前に雄太にLINEをして様子を尋ねたが、メッセージは既読にすらなっておらず、彼が出社したかどうか把握できなかったのだ。結局今日も休んだ上に、なんと無断欠勤までしたなんて。
あずさは動揺を抑え、なんとか言葉を発する。
「ご、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。昨日から体調不良で寝込んでいるのですが、詳しいことは聞いておらず…」
「…そうでしたか。病院には行かれました?差し支え無ければ、様子を教えていただきたいのですが…」
咄嗟に、雄太の「会社行きたくない」「疲れた」という発言を思い出した。しかし彼のメンツを考えると正直に言うのは憚られる。
雄太は元来、完璧主義の男だ。会社ではパーフェクトに仕事をこなし、上司からも部下からも信頼され、チーム内で絶大な評価を受けてきたのだ。
ーゆうちゃん…。あんなに仕事人間だったくせに、無断欠勤なんて。一体どうしちゃったのよ…。
返答に困っているあずさに、松野はあくまで事務的な口調で尋ねた。
「一度病院を受診していただきたいのですが、いかがでしょうか?弊社の産業医でもかまいませんし」
「承知しました。1日でも早く出勤できるようにしますので。本当に申し訳ありません…!」
あずさは、謝罪の言葉をひたすら繰り返すことしかできなかった。
きっとこの話は希望があるエンディングになるでしょうけど、子ナシだから、現実で起こったらば、よくならなければ離婚かな。
口では優しくしてやれ的なこと言えても、実際に向き合ってると自分もおかしくなってしまいそうになる時もあるし。
主人公達はどう乗り越えていくのか?今後に期待。
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