2018.10.20
黒塗りの扉 Vol.8東京のアッパー層を知り尽くし、その秘密を握る男がいる。
その男とは…大企業の重役でも、財界の重鎮でもなく、彼らの一番近くにいる『お抱え運転手』である。
時に日本を動かす密談さえ行われる「黒塗りの高級車」は、ただの「移動手段」ではない。それゆえ、上流階級のパーティではいつも、こんな会話が交わされる。
「いい運転手を知らないか?」
一見、自らの意思などなく雇い主に望まれるまま、ただ黙々と目的地へ向かっているように見える運転手が。
もしも…雇い主とその家族の運命を動かし、人生を狂わせるために近づいているのだとしたら?
これは、上流階級の光と闇を知り尽くし支配する、得体の知れない運転手の物語。
ようこそ…黒塗りの扉の、その奥の…闇の世界へ。
これまでのあらすじ
自らの手腕で成り上がった男・環利一(たまき・としかず)。利一は、新たに雇った運転手・鈴木明(すずき・あきら)の身辺調査を始め、その結果を自らの別荘で鈴木に突きつけた。だが鈴木は利一が雇っていた調査員の存在にすぐ気がつき、自ら情報を調査員に渡したと言う。
2人が対峙しているちょうどその時、鈴木の携帯が鳴る。その電話は、利一の妻・聡美からだった。
「…奥さまからなんです」
困った顔でそう言った、運転手・鈴木明の手の中で鳴り続ける電話。その着信画面は、環利一の方へ向けられており、ディスプレイが表示しているのは彼の言葉通り〝環聡美さま〟という文字。
ありきたりな着信音のはずなのに、酷く耳障りに聞こえる。利一は、聡美が絡......
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