筋金入りの日本酒好きは、秋の到来を待ち望む。なぜか。ひやおろしが発売されるからである。ひやおろしとは、秋から春に醸した酒を蔵で静かに寝かせ、ひと夏越えたところで出荷される商品だ。「例えるなら、冬の初しぼりはひたすら直球勝負を挑む新人投手のようなもの。まだ粗削りなんですね。春のキャンプを終え、夏に地力をつけ、秋にいざ登板したのがひやおろし。カーブや細やかな戦術を身につけ、いよいよ真剣勝負だね、と思わせるものがある」
各社がしのぎを削る中で、福澤氏が選んだのは船中八策。「この夏のトピックスは、四万十市の最高気温記録更新ですよ(笑)。で、高知の酒。船中八策は坂本龍馬のマニフェストですが、お前の船中八策はなんなのだ、と自問自答しながら呑んでほしい。そう、初心を思い出しながら。超辛口の酒にふさわしい時間です」
お次は嘉美心の旨口ひやおろし。「今年、岡山では瀬戸内国際芸術祭が開かれています。いよいよ芸術の秋。このお酒も奥深い旨みを秘めた芸術的な味ですよ」
季節限定の酒を知ると、日本酒がもっと愉しくなる。
福澤 朗の「日本酒カレンダー」
筋金入りの日本酒好きによる、とっておきの日本酒のあれやこれ
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