青山ナイトストーリー:アラサ―彼女の“本当に欲しいもの”から逃げた、男の心理

独身商社マンの祐介、30歳。

仕事も遊びも、次第に自分のやり方というものが出来てきた。

ある金曜日、同じ会社で一般職の彼女、ミキの誕生日を祝うことに。

祝う店や彼女が欲しいものを考える祐介。

そこで見えてきたのは、アラサー男女の間にある微妙なズレだった――

迷ったあげく、外苑前にあるイタリアン『リストランテ ホンダ』を選んだ。

実は前にふたりで行ったことがあるのだけれど、昨年の夏にリニューアルしてからはまだ訪れていない。

何より、彼女が「あのお店には信頼しかない!」と料理も、シェフの雰囲気も絶賛していたのが決め手だった。

今年の誕生日は金曜。もう誰に見られてもいい関係になっているので、会社から一緒に店へ向かうことにした。

金曜の青山は、渋谷や恵比寿のように賑やかすぎないのがいい。それでいて仕事を終えた大人たちが、少し浮き足立って待ち合わせに向かう様子が、なんとも小気味よい。

青山通りを並んで歩いている時はふたりともまだ仕事モード。それが、外苑西通りに入り『リストランテホンダ』の店内に身を置くと、じわじわと恋人モードに切り替わった。

店は7テーブルだけで構成され、クラシックで落ち着いた雰囲気が華やかな顔立ちの彼女を引き立たせた。

3年間、同じフロアでほぼ毎日見ているけれど、やっぱり誰よりも綺麗だと思う。

「前よりもっと大人な雰囲気になったね」

店を見渡して彼女が言った。

「ミキもね」

「なにそれ!(笑)」

冗談にみせた本音。歳を経るごとにレベルアップしている。俺はどうなんだろうと問うと、まだ自信がない。

40歳までに子会社の社長になりたいという夢がはるか遠くて、今は動かせる金額も莫大ではない。


「お誕生日おめでとう!」

乾杯をすると、ミキが「あ〜、美味しい!」と感嘆の声をもらした。

そして、厨房を覗けるガラス窓を見て「躍動感があって、いいね」と言った。窓の向こうでシェフが料理をする光景が、BGMのオペラと妙に調和していた。

「外苑西通りをもう少し真っ直ぐ行ったところに、お母さんが気になると言ってたシャルキュトリのお店があるの。雑誌で読んだみたい」

もうご両親にも会っているから家族の話も多い。想像していた通り、品のよいご夫妻で愛犬まで民度が高そうだった。

本多哲也シェフの作る料理は、さすが10回ひとつ星を獲得しているだけあって、味はもちろん、コースが進むごとに人を温かな気持ちにさせる魅力がある。「このお店でよかった」とミキも言ってくれた。

8皿のコースはいいリズムで進んでいく。

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