
「9年やればあらかたは見えてくる。だからといってくり返しに流されるのは、いやだったんです」33歳で構えた銀座8丁目の店を出て、この6月、奥田透氏は『小十』を5丁目へと移転させた。
前店では上客も三ツ星も手に入れた。現状維持の意義も知った。だが、奥田氏はよくも悪くも「まとまってきた自分」に問いかける。「このままで、いいの?」と。40を過ぎて、体力も少々落ちた。あんなに大事にしてきた食器たちに、距離感を感じ始めた。一方で、変化と刺激を求める内なる声は大きくなるばかり。
「西岡小十さんの器でも、もったいなくてしまっていたものを、この店では使います。魯山人のものもね。格を、合わせる時が来たのだと思うのです」腕と人格と設えと器と、もちろん、料理。どれかが突出し、いずれかに落ち度があっても、店はまとまらない。乱調に美はあっても、格調はない。
「この店を"乗りこなせたら"、次の10年がまた、あるはずですから」もっと上を目指したい。そのシンプルな欲求に突き動かされ、奥田氏の味はここでまたひとつ階段を昇る。