◆友人Aの証言
写真を見た瞬間、あの女だってわかったわ。
目線が入っていたけれど、あれは確実に藤野沙織よ。週刊誌の一面で勝ち誇ったように微笑んでいたわね。
あの子は昔から欲しいものを必ず手に入れる女だった。
「瀬戸涼と絶対に結婚する」って言っていたの、よく覚えてる。
超人気俳優だもの、日本中の何万人という女の子達がその台詞を冗談交じりに言っていたことでしょうね。
でも、あの子は違ったの。本気で言っていたのよ。そして、実現してみせた。天晴れね。
今話題の彼女の正体、ネットに書き込んだり週刊誌にリークしようかと思ったけれど、あの子に怨まれたら怖いからやめておくわ。
彼女…狙った獲物は逃さない、恐ろしい、恐ろしい女だからね?
◆藤野沙織の証言
「瀬戸涼と結婚する」
私がそう呟いた時、みんなが笑って流したのをよく覚えている。冗談だと思ったのだろう。
私はただ最高の男と結婚したかっただけだ。顔が良くて、身長が高くて、歌が上手くて、優しくて、話が面白くて、色気があって、日本中の女に愛されている男…
おまけに年収は数千万から数億。芸能界の諸先輩方を見る限り、港区の億ションか世田谷区の戸建てに住み、お受験にも成功していらっしゃる。
俳優は実力があれば死ぬその瞬間まで現役でいられる。60歳で定年退職に追い込まれてしまうサラリーマンよりよっぽど息の長い仕事だ。
しかし、自分のような一般人が、今をときめく人気俳優と結婚なんかできるはずがない…と、なぜか皆そう思い込んでしまっている。
みんなは当たり前のように同じ大学だの、同じサークルだの、同じ職場だの、せいぜい半径10km圏内に転がっている"そこら辺の男"と結婚していく。
いつの日か平凡な夫に魅力を感じられなくなり、お茶の間で見る恋愛ドラマに唯一心をときめかせ、テレビの中の芸能人やアイドルに恋をすることで辛うじて潤いを保っている。
友達が次々に結婚していっても、正直言って全く羨ましくない。何の夢も希望もない予定調和なつまらない人生だもの。
許嫁もいなければ、階級制度もない、誰と結婚してもいい、この公平な時代にせっかく生まれたというのに。
この記事へのコメント