—結婚したい。
そう願う女子は多いが、行動が伴っていない人が多いのではないだろうか。
婚活を制するのは、自ら動きだし、且つ見落としがちな“婚活のマナー”を知っている女だ。
畑中玲子・30歳。彼女もそんな結婚を夢見る婚活女子だが...
―これはダッシュしないと間に合わないわ...
撮影開始時刻は、5分後に迫っている。
今日は出版社で、夏号に掲載予定の新商品の広告ページの撮影があり、私は向かう途中の階段を3段飛ばしで駆け上がる。前の打ち合わせが押してしまったのだが、そんなことは言い訳にはならない。
駅を出て燦々と降り注ぐ太陽の下を走り抜けると、既にうっすらと汗をかいていた。
―汗のニオイ、大丈夫かな...
汗のにおいを気にしながら、私は受付を済ませ、撮影が行われるスタジオに駆け込んだ。
「お疲れ様です!」
元気よくスタジオの扉を開けて挨拶をすると、ある男性がすっと近づいてきた。
「畑中さんですよね?初めまして。今日から担当させていただく、田辺亮太です」
差し出された名刺には、大手代理店の名前が記載されていた。すらっとした高身長に、爽やかな笑顔。肌も歯も綺麗で、清潔感が漂っている。
「は、初めまして... 広報を担当しております畑中玲子です 」
—なんて、爽やかで素敵な人なんだろう
そう思うと同時に、自分の汗の匂いは大丈夫か、途端に不安になる。一生懸命服をパタパタとしていると、近くにいた美沙先輩にピンク色のスプレーボトルを渡された。
「玲子、ちょっと。化粧室でしっかり汗をぬぐってから、これを使ってきなさい 」
―はぁ...。私ってば、いつも肝心な時にこうやってチャンスを逃すんだわ...
私は美沙先輩に渡されたスプレーとともに、急いで化粧室に向かった。