忘れられない元彼の、衝撃の告白
いよいよ迎えた、陽介との約束の日。
聡子は久しぶりに、女子力全開で食事会に臨んだ。
お肌は毎晩シートパックで潤し、バスタブには美容効果の高いオイルを混ぜ、風呂上がりにはマッサージをしながら全身にボディクリームを塗り込むのも欠かさなかった。
何より気合いを入れたのは、ヘアメイクとファッションだ。
念入りなベースメイクに、春らしい色のチークやリップ。アイメイクは敢えて控えめに、柔らかな印象になるように仕上げた。
髪も丁寧にゆるく巻き、極めつけにFOXYのエレガントなベージュのワンピースまで新調した。いつもキャリアOL風スタイルの聡子だって、その気になればフェミニンな演出もできるのだ。
鏡に映るその姿は、我ながらなかなかイイ女に思える。
「聡子さん、綺麗です...!やっぱり、デキる女はTPOを分かってるんですよね。仕事中の雰囲気と全然違うけど、オンオフを切り替えられる女性の方が知的でセクシーですよ」
志帆の褒め言葉にまんざらでもなく微笑みながら、聡子は指定された西麻布の『AZUR et MASA UEKI』に向かうのだった。
◆
案内された席には、陽介と彼の友人の姿があった。
「聡子!今日はありがとう。こちらはワタル。仲の良い同僚なんだ」
「はじめまして。今日はヨロシク〜!」
紹介されたワタルという男は、少々軽い口調で言った。
ワタルの悪戯っぽい不敵な笑みには、落ち着いて品のある陽介とは対照的に、少し遊び人風でやんちゃな雰囲気がある。
陽介同様、彼もなかなかハンサムな顔立ちをしている。だけどもちろん、聡子の目にはほとんど陽介の姿しか映らなかった。
食事の席は、思った以上に盛り上がった。
仕事の話はもちろんだが、陽介は積極的に大学時代の思い出話を持ち出してくる。会話が途切れることはなかった。
「また聡子に会えるなんて本当に嬉しかった。それに...すごく素敵になって驚いたよ。仕事ぶりにも尊敬する」
陽介は小声で囁き、じっと聡子を見つめる。ワインで少し顔は赤らんでいるが、その優しげな微笑みは昔と全く変わっていない。
「そんな...。でも私も、嬉しかった...」
二人の視線が混ざり合い、聡子の胸はドキドキと高まる。ひょっとすると、彼も復縁を意識しているのかもしれない。
「そういえば、昔よく聡子と海外ドラマを観たよな。今でも観てる?」
「…もちろん!」
「おっ、いいね。何か最近のオススメはある?俺は『ハウス・オブ・カード』が観たくてNetflixに入ったんだけど、すっかりハマっちゃってさ...」
陽介はそう言いながら、iPhoneでNetflixのアプリ画面を表示する。すると、志帆が興奮気味に反応した。
「えっ、Netflix?私も大好きなの!今は『クィア・アイ』がすっごく面白くて!」
聡子も嬉しくなって、すかさず口を挟む。
「それ、まだ観てない!私は『ザ・クラウン』にハマってるの!」
やはり、中毒性の高い海外ドラマの話題は盛り上がる。皆それぞれに、お気に入りのドラマについて熱く語り合う。
ワタルだけはNetflixを利用していないようだが、それでも興味深そうに皆の話に耳を傾けていた。
―あれ...?
そのとき聡子は、陽介のアプリ画面のラインナップを見て首をかしげた。そこには「あいのり」や「テラスハウス」など、彼の趣味とは全く異なるドラマの一覧が並んでいたのだ。
「陽介って『あいのり』観るの?趣味、変わった...?」
すると彼は、少し照れた様子で答えた。
「実は、彼女とアカウント共有してるんだ。だから、二人が観ているものがごちゃ混ぜに表示されてて...」
―か、彼女...?
はにかみ笑いを浮かべる陽介を前に、聡子は思わず呆然と言葉を失ってしまった。