2012.02.21
これからの中華は沿線がおもしろい Vol.1Foo
東急世田谷線/松陰神社前
扉を開けて、驚くのは壁の黒板に書かれた膨大なメニュー。築地から毎日仕入れる海鮮は五島列島産アラカブ、串木野産マハタなど割烹さながらの充実ぶり。他にも牛タンステーキ、フカヒレ、香港トリッパなどなど日替わりの料理が黒板からはみ出さんばかりに列挙されている。
『聘珍樓』で10年以上腕を揮った林慎一シェフ。数年前にパリを訪れた際、現地のビストロを見て「ジャンルやスタイルに関係なく、料理人、フロアスタッフ、ゲストが三位一体で醸し出す活気が良い店の条件だ」という真理に辿り着く。38歳にして始めた自分の店のモットーは“いつも活気に満ちている事”。
だから一流店でも通用する実力を持ちながらも、誰もが気軽に立ち寄る事ができるようにと、1杯飲みもOKというスタイルで開店。充実の小皿料理は300円からという破格値。けれどそのクオリティは驚くほど高い。例えば自ら加工した肉類は、腸詰め、舌ハムなど部位ごとに山形産ゆきなや福井の勝山水菜など、日本の伝統野菜と組み合わせる。吟味された素材や、組み合わせの妙が、小皿料理も単なる前菜に終わらないオリジナルの味を生むのだ。
「広東料理の醍醐味は、多彩な海鮮を自在に調理できること」とシェフが言う通り、ここの自慢は海鮮料理。毎朝築地からやってくる鮮魚は、その個性に合わせた調理法を選択し、調味料は必要最小限に。瞬時に完成した広東式海鮮は、まさに直球!「仕事帰りにちょっと1杯って時に、こんな店が近くにあると嬉しいなと思って」とシェフ。
自身の願望を叶えるかのように、この店ではお酒も充実。甕出しの紹興酒はもちろん、ブルゴーニュと国産を中心としたワインもグラスで常時8種は用意する。美味と美酒を好きな時に楽しめる。それは何にも代えがたい贅沢だと、改めて実感させてくれる店だ。本物の味を追求する姿勢と、沿線ならでは安堵感。あくまでも客目線で始まった同店は、頼もしく、清々しい街場の中華ビストロだ。
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