ー恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。
梓は焦って篤人のもとへと走り寄り、挨拶もそこそこに車に乗る。
ーこの男、自分の派手さに自覚なし。
通行人だらけの心斎橋で、停車するたび人目にさらされる。
梓は顔を隠すように下を向き、どうか知り合いに会わないよう、もう祈ることしかできない。
下を向いている理由を篤人に悟られないよう、巧みにギアを操る彼の手元を見つめて「マニュアルってすごいですね、むっちゃ運転うまいですね」なんて褒めてみる。
「20代でフェラーリに乗るのが僕の目標やってんなぁ〜。これは中古だけど、次は新車で黄色のランボルギーニを狙ってるねん」
ー中古かーいっ!
と心の中で突っ込みながらも、少しだけ篤人の無邪気な笑顔が可愛いと感じてしまう。そして少しずつ、真っ赤な篤人に不思議と見慣れてくる。
ふと後部座席に目をやると、篤人のバッグらしきものがあった。
ルイ・ヴィトンのモノグラムのクラッチバッグだ。篤人のファッションから考えるとクラッチバッグではなく、もはやセカンドバッグと呼んだ方がしっくりくる。
そんな篤人が向かったのはまたもや『ザ・リッツ・カールトン大阪』。どうやら起業家の成金タイプは、このホテルで顏が効くことが一番のステータスのようだ。
ロータリーに車を停めると、ベルボーイが小走りでやってくる。
「伊藤様、いつもありがとうございます」
篤人は笑顔で手を振った。
それから5階の中華『香桃』に到着すると、点心のランチコースをオーダー。
「ここのお店はマンゴープリンが一番美味しいから」と、コースに付いてくる杏仁豆腐には手をつけず、マンゴープリンをオーダーする篤人。いちいち贅沢な男だ。
ランチを済ませて1階のラウンジに移動すると、篤人は先日と同じように少し緊張した表情でいきなり口を開いた。
「あの、2回目で突然なんやけど付き合ってくれませんか?梓ちゃんにひと目ぼれしちゃったみたいで」
「ええ!?」
突然の告白に、梓は戸惑う。
「こういうのはタイミングやと思うねん」
ーうーん、、服装やら車やら何かと気になるところが多いけど…。中身は真面目でいい人っぽいけど…。
もう一度、篤人の全身をチラッとチェックする。
ー人は外見じゃないし、服装ぐらい変えていけるかな?
梓の中で、大きな葛藤が巻き起こる。
友達に紹介できるのか、この人と並んで歩けるか……。
瞬時に頭を巡らせて、出した答えはこれだった。
「では、少しずつ距離を縮めていく方向で…」
すると篤人はわかりやすくパッと明るい表情になった。子供みたいに無邪気に笑う彼に、梓もつられてクスッと笑ってしまう。
服装くらい、変えられる。
そう思っていた梓だったが、この篤人という男は、さらに強烈なエピソードを持っているなんて、25歳の梓は想像さえしていないのだった。
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この記事へのコメント
ちなみに豊中から帝塚山学院は遠くて幼稚園・小学校は通えませんよ〜
クルマで送り迎え付きならアリですが…
小学生を通勤ラッシュの朝の御堂筋線に乗せられますかいなっ