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  • 誰から見てもパーフェクトな外資コンサル男。港区男子に成長した男の、意外な女性へのトラウマ

    そのとき、翔は悟った。

    —煙草を吸う男は、モテないのだ—。

    あれから、8年。昨今の恋愛市場において、ますます喫煙者の肩身は狭くなってきている。翔が愛用しているデーティングアプリでも、女性のプロフィール文に「タバコを吸う人、ご遠慮ください」と書かれているのも珍しくはない。

    今の東京において、煙草を吸うものは、恋愛をする土俵にすらあげてもらえないのである。


    現在30歳になった翔は、誰もが認める一人前の男となった。会社では、チームを率いるプロジェクトリーダーとして活躍し、後輩からの信頼も厚い。

    今日は仕事を終えた後、表参道での食事会に参加した。

    相手は、外資系メーカーの女性たちだ。彼女たちが翔と同年代ということもあり、その場は和やかで落ち着いた雰囲気に包まれていた。昔のような、騒がしいだけの食事会とは大違いだ。

    8年という月日は翔を大きく変えたが、それは仕事においてだけではない。

    「サラダ取り分けるよ。お皿、貸してもらえるかな?」
    「そこの席、寒くないかな?替わった方が良ければ、いつでも言ってね」

    翔がこうしてさりげなく女性たちを気遣っていると、女性陣のひとりが感心したように言った。

    「翔さんって、すごく気配り上手。お料理取り分けてくれる男性って、実はそうたくさんいないんですよね」

    「わかるわかるー!だから、こっちが取り分けなくちゃって雰囲気になるけど、なんだかわざとらしいかなって余計な気を揉んじゃったりするのよね」

    女たちがキャッキャと盛り上がる様子を、微笑みながら見つめていた。翔はすっかり、自他共に認める大人の港区男へと成長を遂げたのである。

    もちろん、8年前のようなヘマはしない。テーブルで煙草に火をつけるだなんて、言語道断だ。

    そのとき翔は、盛り上がる女性陣の中に、ひとりだけ空気感の違う女性がいることに気がついた。彼女の名は、千尋といった。

    —しっかりしてそうな子だな…。

    千尋の整った顔立ちとクールな雰囲気は、いかにも仕事ができる女性といった感じである。皆の話を聞きながら、時折くすりと微笑む姿が妙に色っぽくて、翔は彼女と話してみたいという衝動に駆られた。

    しかしその後も、千尋に話しかけるチャンスを掴めないままだった。

    —なにか彼女と話すきっかけはないだろうか。

    必死で策を練るが、そもそも千尋とは席が離れており、なかなか話すタイミングが見つからない。

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