暖簾をくぐれば、そこは神楽坂を代表する小割烹! 大人はこういう店を普段使いする!

勢いのある若手シェフの洒落たお店もいいが、それ一辺倒では、女性にも飽きられてしまう。男であれば、TPOに応じた店のセレクトができてこそ、本物。

しかも、神楽坂においては、石畳の情緒も手伝って、老舗のお店も一層魅力的に映る。ここ『め乃惣』は昭和50年に開店した和食店。

神楽坂通りから小路を入ったところにあり、地元の人からも人気のお店だ。こういうお店を適時提案できるのが、デキる男というものだ。

美しく、潔い料理に舌鼓。粋な大人が通う、神楽坂を代表する小割烹
『め乃惣』

過剰に飾ることなく、本質を実直に極める。30歳を過ぎた今、本物の大人になるべく心掛けているのは、そんな信条。『め乃惣』のカウンターで、想いを新たにする。

店名は、泉鏡花の小説『婦系図』に登場する魚屋「め組の惣助」から。惣助のモデルになったとされる人物が同じ神楽坂にある老舗料亭『うを徳』の創業者・萩原徳次郎で、この家に生まれた萩原哲雄氏が開いた店こそ、『め乃惣』。

ピザライス¥1,080~。先代が創案した〆。人数に応じて対応する。大葉や鰹節、ときにはチリメンジャコなど、そのときどきの材料で作り、醤油は香ばしく、パリパリ食感も愉快

料亭の美味しさはそのままに、もっと気軽に楽しんでもらおうという信念のもと、昭和50年に開業した。

だから、この店で登場する料理はどれも、由緒ある名店のDNAを継承したものばかり。

しっかり甘いが後味が上品な厚焼き玉子だって、自家製味噌に漬け込んだ銀だら西京焼きだって、歴史に連綿と連なる正統派の江戸の味。

海老しんじょ¥2,160。ランチでも御膳仕立てで供する名物。生にこだわった芝海老でプリプリ感もアップ。従来のウスターソースに加え、2代目は塩で食することも推奨している

そして、何を置いても外せないのが、海老しんじょ。敷紙に一点の油滴もない、それは今宵もいつも通り美しく、余計な装飾を排した、潔い仕上がり。食べれば、まず、ふわりとした食感が心地良く、その後で、芝海老の豊かな香りが鼻へと抜けていく。これぞ、名物の実力。

いつものように感激していると、父の味を受け継ぐ、二代目の萩原淳二氏は意外なことを語り始めた。

「店に入って10年ほどになりますが、私が作るようになって、しんじょの芝海老はその都度で極力、生を仕入れるように変えました」

小鉢・前菜¥2,700。時季により内容は替わるが、この日の小鉢は白子ポン酢。前菜に厚焼き玉子、ヒメサザエ旨煮、初物の空豆、もろみ味噌ときゅうり

以前は一括で購入していたが、二代目は鮮度重視に方針転換。その海老の水分の抜き方も、卵黄に油を入れて作る「黄身もと」の加減も試行錯誤し、フワフワ感のさらなる向上を模索したという。

「歴史やスタイルは守らねばなりませんが、自分なりに良いものは常に探究していきたいんです」。

逆に、西京焼きの味噌の塩梅や厚焼きの割下などは「心から美味しい」と思っているから、不変を貫く。

江戸切子の酒器は瀧澤利夫氏の作品が中心

そう言えば、昨年の春には店舗の全面改装を行い、入口に坪庭や蹲いを設えた。室内のカウンターも、木曾檜の一枚板に新調。

しかし、簡素で素朴な雰囲気は以前ののまま引き継いでおり、その成果だろう、古くからの常連客に加え、若い人の来店も増えているという。

カウンター6席のほか、個室にもなるテーブル席も8席を用意

この店の暖簾をくぐるなら、まさに今。本質を実直に極め、その結果、現れる変化もまた恐れず。

もうひとつ、心掛けるべき信条が増えた。

Photos/sono@bean, Text/Haruka Koishihara

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