しっかり者で、面倒見が良く、責任感が強い…。
長女として育った女性に多いといわれる特徴。これにぴったり当てはまるのが、大手PR会社でPRコンサルタントをしている島田塔子(31歳)。
仕事は順調、恋人の恭介(32歳)とも円満。…だと思っていたが、塔子は「長女ならでは」のある考え方で、恋愛と仕事で悩むようになっていた。
「ごめん、俺も愚痴ばっかり聞くの辛いんだけど…」
付き合って2年になる恭介が、疲れた顔を隠すことなく言った。その顔を見て、トリュフの香りにうっとりしていた塔子は、思わず食事の手が止まる。
麻布十番のお店で、トリュフをかけられた卵かけご飯を食べている時だった。
一時停止状態の塔子に、恭介はさらに続ける。
「塔子はさ、我慢しすぎなんだよ。自分が我慢すれば済むと思ってるんだろうけど、そうして不満を溜めてばっかりじゃん。もちろん少しぐらいは愚痴も聞くけど、今日はちょっと…多すぎじゃない?」
「でも、いちいち文句言っても仕方ないじゃない」
さすがに塔子も黙っていられず反論する。だが、恭介は大きなため息を吐きながら言った。
「我慢することが正しいとは限らないよ」
「そんなこと、分かってるわよ。でも…」
塔子は、その先の言葉が言えなかった。
恭介が言うことは正論だ。正論に反論しても、収集つかなくなるだけ。そう思い、止まっていた手を動かし無言で食事を続ける。
恭介は、スマホ向けアプリの開発をしているベンチャー企業で役員をしており、共通の友人を介して知り合って以来、順調な関係が続いている。だが最近では、こうした些細なことでわだかまりを抱えるようになった。
先週のデートは、恭介のドタキャンで会えなかった。
―久しぶりに会う今夜は、ケンカなんてしたくなかったのに…。
塔子は、せっかくのトリュフの香りも存分に味わえないまま、なんとなく気まずい空気をやり過ごすしかなかった。