春香が、24歳のとき。
心から愛していた男が、ある日忽然と姿を消した。
その日から、春香の時計の針は止まったまま。食事会に行っても新しい恋人が出来ても、まとわりつくのはかつて愛した男の記憶。
過去の記憶という呪縛から逃れることのない女は、最後に幸せを掴み取る事ができるのか?
春香は時々、かつての恋人・祐也からよく言われた言葉を思い出す。
「春香は嘘がつけないところが、かわいいんだよね」
春香の髪がくしゃくしゃになるまで頭を撫でて、祐也は嬉しそうに笑った。
春香が祐也と出会ったのは、22歳のときだ。親友の恵子にくっついて顔を出した大学の飲み会で、すぐに祐也と意気投合した。
今思えば、お互い一目惚れのようなものだった。初めて会った日にはもう、恋に落ちていたのだ。
恋が上手くいく時はトントン拍子で事が運ぶもので、恋愛の始まりにありがちな余計な不安も、無駄な駆け引きも必要ない。春香と祐也も急速に引き寄せられていった。
大学を卒業してからも二人の仲は変わらず、付き合っていた2年間、春香の世界はまさに祐也一色だった。曖昧な将来の約束を本気で信じ、まだ見ぬ未来を心に描いて過ごした日々。
だけどある日、祐也はいなくなった。春香の前から忽然と姿を消してしまったのだ。
LINEのメッセージが既読になったのを最後に、祐也の消息は途絶えた。
会社にまで電話をすることをしなかったのは、真実を知るのが怖かったからだ。それでも勇気を振り絞って一度だけ、祐也のマンションを訪ねてみたが、チャイムを押しても何の気配もなかった。
ごめんごめん、なんて笑いながら、いつかふらりと姿を見せるかもしれない。しかし、待てど暮らせど祐也は現れなかった。
そして気がつくと、3年が経過していた。
この記事へのコメント
気になって仕方ない 笑