東京美食MAP 10の街 神楽坂のバルと日本料理の最有力 Vol.1

キソウアン ササキ

喜想庵 ささ木

大人であるとは、粋であるとは、その答えが見つかる

左.お造り。マコガレイ、インドマグロの大トロ、アオリイカ。スダチやネギを添えて。料理は全て¥13,650のコースより

右.「やりたい料理がやれるから、幸せ」と語る店主、佐々木康友氏。どうしてもという時だけカウンターも予約を取る。その場合も受け付けるのは1組のみ。壁には上村松園の艶やかな額が

ここ、石畳の道をきれいどころが行き交う花街、神楽坂こそ"大人の店"は似合うのだ。火灯し頃にようやく暖簾を掲げる『喜想庵 ささ木』で、つくづく思った。

「料理人として生きてきて、一番嬉しかったのは亡くなる間際の方が、他の物は何も食べないのに私が作ったお弁当だけはペロッと食べてくれたと聞いたときですね」

店主、佐々木康友氏は15歳から日本料理ひと筋でやってきた職人だ。小僧として入ったのは当時、板前割烹の草分けとしてその名を轟かせていた銀座『浜作』。長じては『青山ダイヤモンドホール』や恵比寿『Q.E.D.CLUB』の和食部門の料理長を務めた。その後5年の間、風が吹くまま気の向くままに全国各地を旅して回り、独立したのは去年の秋のこと。

店開きから1年にもならないというのに、この店にはなぜか古き良き時代の香りがある。それは佐々木氏の人柄が放つものなのだろう。そして、料理には氏の矜持が宿っている。お客さんを喜ばせることを自分の生き甲斐とする一方、万が一、明日、倒れてしまったとしても誰にも迷惑をかけない生き方を貫いていくという清々しい矜持が。

朝、自転車で通う築地で仕入れたマコガレイを活け締めにし、夕方、味が乗った頃に包丁で薄く引いていく。飾り気のないシンプルな姿。けれども盛るのは腹の良いところだけ。そんな料理なのだ。

「男と女のことだって同じ。大満足しようと思ったら、シンプルが一番。でしょ?」氏の艶っぽい物言いを聞けば、是非ともカウンターに陣取りたいところ。

だが、基本的に案内される席は手前と奥にあるふたつの個室となる。板場に立つのは氏ひとりのため、手を動かすのに忙しく、きちんとお相手できないのは失礼にあたるから、というのが理由だ。球を狙うビリヤードの名手のように包丁をスッと引く。佐々木氏の構えはこれぞ、いなせ。個室ではお目にかかれないのが、唯一残念なところである。

左.料理が映える塗りのテーブル

右.前菜。タコの柔らか煮と初夏の野菜の酢味噌がけ。さっきまで生きていた車海老が甘い

左.最大8席まで可能な個室

右.お椀。シャッシャッとリズムよく骨切りをし、葛を打った鱧が吸い地の中で花開く。ジュンサイの食感、早松茸の香りがごちそう

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