―私、年内に婚約するー
都心で煌びやかな生活を送る麻里・28歳は、ある日突然、こんな決意を固めた。
というのも、麻里は気づいてしまったのだ。
“女は30歳過ぎてからが魅力的?年齢を重ねるほど、色気が増す?”
女の市場価値を冷静に受け止めれば、20代で結婚した方が絶対お得に決まっている。
掲げた目標は“今年中にプロポーズされる”こと。本気を出した女のリアルな婚活奮闘が、今、はじまる。
月曜日のランチタイム。
青山のオフィスの外に広がる真夏の青空に心を馳せながら、Outlookに届いた一通のメールを開くと、麻里はつい「うっ...」と呻き声を漏らした。
親友のみゆきから、今週の二人のスケジュールのリマインダーメールが送られてきたのだ。
平日は商社マン、医者、外銀、慶応幼稚舎グループとのお食事会が4件。週末は経営者のホームパーティと葉山のヨットクルーズへ赴く予定が2件。
さらにバッファ候補として、野球選手とテレビ局員との深夜スタートの飲み会が2件、ズラリと並んでいる。
みゆきは日時と相手の職業、開催場所を簡単な表にまとめ、メールに貼り付けていた。
これは流石に予定を詰め込み過ぎではないかと一瞬怯むが、しかし、そんなことを言ってる場合ではない。何を隠そう、二人は目下、結婚相手探しに大奮闘中なのである。
―今週は慌ただしくなるかとは思いますが、優良案件が揃いましたね。夏風邪など召されないよう、気合いを入れて乗り切りましょうー
文末のみゆきの一言に、麻里はクスリと微笑む。
社内メールのやりとりは、社内メールらしい文面で送り合うのが二人のルールだ。
―やっぱり、持つべきものは女友達だわ...。
そう、怯んでいる余裕なんかない。こうして協力的な友人とせっせと力を合わせ、人脈をフル稼働して出会いの場を設けられることに感謝しなければならないのだ。
だって麻里は、自分自身で“年内婚約”を決意したのだから。
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