丸の内で起こる人生の転機:27歳、詩織の忘れられない一夜

親友の結婚式から東京に戻る新幹線の中、詩音はすっかり塞ぎこんでいた。新郎の地元だという神戸で行われた結婚式で、輝くような幸せオーラを全身で放つ女友達は、今の詩音には眩しすぎたのだ。

詩音にも一緒に暮らして2年目になる裕介がいる。しかし27歳になり、プロポーズが無いままの関係に不安を覚え、一度同棲をやめてみようかという気持ちにすらなっていた。

東京に着くと今にも雨が降り出しそうな空だった。スマホには、丸の内で落ち合う約束をしていた裕介から、連絡が入っている。

「今日は丸の内の『GRILL UKAI MARUNOUCHI』でね。先に入ってる。」

石造りの重厚なエントランスは、訪れる人々をあたたかく迎えてくれる。

詩音の両親は、結婚記念日には決まって、『横浜うかい亭』に仲良く連れ立って行くのがお決まりだった。だから詩音は”うかい”と聞けば、どこか懐かしい気持ちになるのだ。でも、そんな夫婦像は、自分にはまだまだ遠いものに思える。

落ち着いた店内は、騒がしすぎず、思い思いに食事を楽しむ人々の高揚......


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