「次はあなたね」。結婚式で受けるプレッシャー
麻里子は、大手食品メーカーに勤務する29歳。高史からは、笑った時に三日月形になる、少したれ気味の大きな目が好きだと言われる。
付き合っている高史は、東京駅近くに本社を構える専門商社で営業をしている33歳。奥二重の目は凛々しさを感じさせ、ふっくらした唇は優しさを感じさせる、バランスの良い男だ。
高史とは共通の友人を介して知り合い、3度目の食事デートで付き合い始めた。
それから9ヵ月。お互いのことも十分知れたはず。
30歳を目前にした麻里子は、20代のうちに結婚を決めたいと思っており、それとなく高史にもアピールしていた。
それなのに肝心の高史は、ゆっくり時間をかけてお互いを知ることが大切と考えているようで、結婚の話はまだ積極的に進めようとしてくれない。
それが原因で、最近2人の関係はなんとなくぎくしゃくしていた。
今日のケンカの理由もそれだ。
麻里子は先週、大学同期の結婚式に参列した。会場は虎ノ門ヒルズのアンダーズ東京。
絶景を前に、純白のウエディングドレスに身を包んだ友人は、永遠の愛を誓っていた。
大学入学当時の10年前から、彼女とはお互いの恋愛話を赤裸々に語ってきた。
一緒に泣いて、笑って、失恋した時も互いに慰め合った。そんな友人が、ブーケトスの際、麻里子に目がけてブーケを投げてきた。そして、見事ブーケを受け取った麻里子に言ったのだ。
「次は麻里子ね」と。
それに便乗するように、ほかの友人たちからも散々プレッシャーを受けた。
まだ20代前半だった頃、友人たちと結婚について夢を語っていた頃。皆で何度も口にした言葉がある。
「遅くても、30歳までには結婚したいよね」
そう、結婚において「30歳」はひとつの目安だった。誰かに何かを言われたわけではないが、「30歳までには」という気持ちが、ごく自然に友人たちの間でも共通認識としてあった。
その30歳が、目前に迫っているのだ。
だから麻里子は余計に焦る。当時自分が、何の気なしに言っていた言葉に苦しめられる。
そんな経緯もあって、今日の久しぶりのデートでも話題は自然と結婚の話になったのだ。それなのに、高史は「そんなに焦らなくていいんじゃない?」と、のんきなことを言って、麻里子をイラつかせる。
「麻里子ってさ、何かというと30歳までにはって言うけど、なんでそんなに30歳にこだわるの?」
高史から、顔を覗きこむようにして尋ねられた。