エーデルワイフ Vol.4

エーデルワイフ:絵に描いたように幸せな生活を送る新妻の、不穏な涙

恋は、タクシー待ちに似ている


「先輩、恋愛は間を空けちゃダメなんです」

早帰り推進の水曜日。オフィスの化粧室で、千晶は後輩・あずの助言に神妙な面持ちで頷いた。

「一度恋愛から離れると、復帰に時間がかかるんです。先輩にもうそんな時間、ないじゃないですか?」

…大きなお世話である。しかし、あずの言っていることは正しいから千晶は頷くのみである。

彼女は4つも年下なのに、いつも上からなアドバイスをしてくる。

千晶は、これまで自分を姉御肌タイプだと思っていたのだが、あずに言わせると「先輩は不器用で心配」なのだそうだ。

…まあ実際、不器用だしかなり鈍感なのかもしれない。

元・婚約者の涼ちゃんが浮気していることにも、メッセンジャーを見てしまうまでまったく気づかず、一人浮かれて花嫁支度をしていたのだから。

婚約破棄以来、千晶は完全に自分の見る目や判断に自信を喪失している。

そんな千晶を見かねた顔の広いあずが「私、先輩のためにひと肌脱ぎます」と言ってきたのが、先週のこと。

そしてすぐに、大手法律事務所で弁護士をしているのだという36歳独身男性との食事会をセットしてくれたのだ。

正直まだ、新しい恋、という気分ではない。しかしそんなことを言おうものならあずに説教されてしまいそうだ。

鼻歌を歌いながらマスカラを塗りなおす後輩の横で、千晶は手持ち無沙汰にグロスだけ、重ねておいた。



恋は、タクシー待ちに似ている。

昔、そんなセリフをドラマで聞いた。待てど暮らせど全然来ないのに、探していない時にはすんなり空車がやってくる。

千晶も、まだ新しい恋をする気分じゃなかった…はずなのだが、求めていない時にこそ、素敵な男性に巡り合うものらしい。


「正木進一郎です」

『ご馳走 たか波』の個室で彼に出会った時、千晶の胸は無条件に高鳴った。

あずが紹介してくれた36歳独身男性は、爽やかで長身で、いわゆるイケメンだったのだ。

「立花千晶です。今日はよろしくお願いします」

涼ちゃんと付き合い始めてからは出会いの......


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