東京マザー Vol.6

東京マザー:未婚女が既婚者の愚痴を言うと「ただの嫉妬」と片づけられる、不条理な現実

「例えば私が両親の介護をしていて、介護がいかに大変かを話したりするじゃない?もちろんみんな大人だから“大変ですね”とか言ってくれるわよ。

でも、それでもよ。私は絶対そんな話はしないし、私じゃなくても大抵の人はしないでしょ?それはなぜかって、みんなそんな事に興味がないっていうのを知ってるからよ。同情はしても、所詮他人の親よ。それも、お酒の席ならまだしも、仕事のミーティング中よ?」

話し出したら止まらなくなってしまった。

注文していたランチが運ばれてきて、フォークを手にとったものの、ゆり子はまだ一口も食べていない。

希は話の途中で小さく「いただきます」と言って食べ始めたが、ゆり子にはまだ言いたいことが沢山ある。

「ねえ希ちゃん。子どもを産んだ人って、どうしてああも、世界が自分中心なのかしら。“子どもってかわいいわよね?子どもの話はみんな聞きたいわよね?子どもには癒されるでしょ?”って、当たり前に思ってるでしょう?その鈍感さに、私引いちゃうのよね」

よほど仲が良くない限り、同僚の家庭の話なんて聞かなくていい。それなのに女というのは、結婚して子どもを産むと、家庭の情報を垂れ流しにしてくる。

そして、独身のゆり子に哀れみの目を向けてくるのだ。

「あなたはまだこの幸福を手にしてないのよね」とでも言わんばかりに。まるでそれが、女の人生の正解であるかのように。

それに対して文句を言うと、嫉妬だ僻みだと言われる。

ゆり子がもし結婚して子どもを持っていれば、ひとつの意見として聞いてもらえるようなことでも、子どもがいない、結婚していないというだけで、同じ意見を言ってもただのやっかみにされてしまう。

その現実が、よけいにゆり子を苛立たせる。



ランチを終えると、希はドラッグストアに寄ると言ったため、店の前で別れた。

ゆり子が幾分スッキリした気持ちでオフィスに戻ると、エレベーターホールで紀之とばったり出くわした。


「おう、久しぶり」

「あら本当、久しぶりね」

簡単な挨拶を済ませて、2人でエレベーターに乗った。他に乗る人はだれもいない。

「ねえ」

ゆり子が言うと、紀之は「ん?」という顔を向けてきた。

「最近ちょっと仕事のことで悩んでることがあって」

「へえ、そうなんだ」

「そうなのよ。そんなに大したことじゃないんだけど、良かったら近いうちに相談に乗ってくれない?」

「おお、俺でよければいつでも。昼メシでも行く?」

紀之は、当然のようにそう言ってきた。

「えっと、できれば夜がいいんだけど。ゆっくり話したいから」

「そうなんだ、まあ別にいいけど。じゃあ、メールでゆり子の都合がいい日、送っといて」

決して嘘ではなかった。

勢いで食事に誘ってしまったが、本当に仕事の悩みはあって、誰かに相談したいとも思っていた。

ただ、佳乃に対するどす黒い感情がないかと言えば、それはおそらく嘘である。


▶NEXT:6月1日 木曜更新予定
良妻賢母になれない佳乃の、不満が爆発する……?!



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