二人の男で Vol.2

二人の男で:女に嘘をつかせたのは、危険な男。女が逃げ出したくなったのは、誠実な男

感情を逆撫でする、危険な男。身体の芯が痺れるのは、疲れのせい...?


泥のように深い眠りに落ちた詩織は、小さく断続的な振動音によって、うっすらと目を覚ました。

面倒を避けるために自らを恋人に差し出したが、長時間のフライトで既に酷使した身体は疲労の限界に達しており、鉛のように重い。

きつく詩織を抱きしめる正男の熱い腕を静かに逃れ、そっと起き上がると、軽い頭痛と眩暈がした。

音のするリビングにフラフラと向かうと、詩織のスマホが光っている。時間は、午前1時過ぎ。着信は知らない番号だった。

「もしもし...?」

「詩織?寝てた?」

詩織は、はっと息を飲む。突然自分を呼び捨てにした電話の相手が英一郎だということは、すぐに分かってしまった。

「どうして番号を知ってるんですか?」

彼は質問には答えず、軽く笑った。背後では、ジャズピアノの音がふわりと流れているのが聞こえる。

「声が聞きたくなったんだよ」

「......そういうの、やめてくださいって言いましたよね?」

詩織はきつい口調で答えたが、その反面、先日彼に握られた右手が、ほんのりと熱を持つのを感じた。


「いま、家?」

一瞬の間のあと、詩織はうわずった声で「はい」と小さく答えた。本当は正男の部屋にいたが、咄嗟に嘘をついてしまった。

英一郎は、くくく、と、またしても詩織をからかうように笑う。

「ごめん。詩織みたいにイイ女が、こんな時間に一人でいるわけないよな」

「用件は、何ですか?ないなら、もう切ります」

普段は冷静な詩織だが、英一郎に対しては、なぜだか酷く感情を逆撫でされる。親しい恋人にすら本心を飲み込む詩織だが、彼に棘のある言葉を吐くことに、躊躇いはなかった。

「ごめんごめん。そんなに怒らないで。明日は仕事?」

「......いいえ。休みですけど」

「じゃあ、夕方6時に君の家に迎えに行く。『Crony』に予約を入れてるんだ」

「え?明日は私、予定が......。それより、私の家、知ってるんですか...?」

「よろしくね。邪魔して悪かったよ。おやすみ」

電話は、詩織の返事を待たずに一方的に切れた。真夜中のリビングで、詩織は一人ポツンと取り残されたように、英一郎との会話を無意識に反芻してしまう。

胸がざわつき、頭の芯が痺れるように感じるのは、疲れのせいだろうか。

「......しーちゃん?電話?どうしたの?」

「あ、起こしちゃってごめんね!後輩にね、仕事のトラブルの相談をされただけ。もう遅いから、早く寝よう」

詩織は英一郎との会話を無理矢理忘れるべく、ぎゅっと恋人に抱きついて眠ろうとした。

しかし頭の隅では、明日の正男との予定をキャンセルする口実を、必死に考えていた。


▶Next:2月25日土曜更新
詩織は結局、英一郎の誘いに乗ってしまう...?どうしても抗えない、大人の男の魅力とは...

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

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