ミューゼオ・スクエア Vol.2

嗜好品としての「愛でる靴」を際立たせる、靴を染める「カラリスト」という仕事

職人としての責任感が育てた技術


しかし、ここまでの道のりはスムーズではない部分も、当然ある。コロンブス在籍時代、伊勢丹で販売している靴を購入した人に向けて染め替えをやっていたが、最初はトラブル続き。

「思った色にならないとか、仕上げ方がまずかったりで、お客さんのところに行って、仕上げ直しをしたり…。いろいろやっているうちに、マニュアルではないですが、自分なりのやり方ができてきました」

しかも、当時は常に20~30足の靴が後ろに待っているという状況ながら、援軍はいない。この道を諦めようと思ったこともあったのでは?

「後任は誰もいなかったし、こうやったらいいと教えてもらう人もいない。自分で突き進んでいることなので、くじくのが当たり前。でも、辞めようという気持ちは不思議とならなかったですね。それよりもお客さんに申し訳なかったです。満足いくように仕上げて直す、次からは失敗ないようにしよう、ということだけを考えていました。それでも、渡す時が一番不安。今でもやっぱり不安です」

職人としての責任感が技術を後押ししていく。まさに実践と経験の中で自分の技術を積み上げてきた。そんな藤澤さんの腕を信じて、今日も依頼の靴や革小物が届いている。

美しい陰影を帯びた靴に与えられる新たな魅力


革製品を染める作業工程を少し見せてもらった。青い作業着(実はスプリングコートだという)を着て、自身で調合した染料を使い、鮮やかな色に仕上げていく。

染料をつけてはこすり、重ねていき、またこする。しかも、かなりのスピードで何度も同じ動作を続ける。色に対する感度とともに、一連の反復作業を正確に続ける体力と忍耐力が必要だ。その手さばきに見入っているうちに、革の名刺入れはみるみる美しい青色に染まった。そして、濃淡ある染料を使い分け、陰影をつけていく。

この陰影(ムラ)が革染めの魅力のひとつ。藤澤さん自身も、その美しさに魅了され、染める職人の道に入っていった。

「100年以上経ったアンティークの靴は、革が日に焼けて色が変わったりだとか、独特の革の表情をしているんです。そういうところが美しいと思っていて。潜在意識の中で革を染めることで、そこに近づけるんじゃないかと思ったのかもしれないです」

だからこそ、納期が迫っていても、藤澤さんのなかでの理想の色にならないときは、何度もやり直しをするという。ときには徹夜も辞さないこともあるとか。

素早く正確な手さばきで染めていく。迷いがない動きに見とれてしまう

染料は自身で調合。藤澤さんしか出せない色が生み出される

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo