バルージョ麗子 Vol.2

バルージョ麗子:おひとりさまにキツイ一言「君って1人で生きていけるタイプだよね」


自分のレベルを知っていたはずなのに……


麗子の心臓が鳴った。まさか向こうから声をかけてくるとは思っていなかった。麗子は自分のレベルを理解している。一般的な男が相手ならまだしも、芸能人かモデルかという男に声をかけられるほど自分は美人ではない。「中の上」。美しい女が山ほどいる東京では、どうあがいても「上の下」くらいだ。

「い、いえ、たぶん会ってないと思います」

はぐらかすように答えたが、麗子は確信していた。

(こんな人、忘れるわけがない)

「そっか」

そう言うと、男は何もなかったかのようにスマホに目を戻した。まじめに答えたのがいけなかったのだろうか。麗子はせっかく投げられたボールを掴みそこねたことを悔やんだ。

すると、男は再び麗子に視線を向け「僕こんな顔してるからよくジロジロ見られるんですよ」と、しれっと言った。麗子は思わず口に含んだ赤ワインをむせそうになった。ナルシストというか、すごい自信というか。甘い顔からは想像しなかったトゲのある言葉に驚いた。

男が声をかけてきたのは自分に興味があるからではないと知り、妙な勘違いをした自分が恥ずかしくなった。少し酔い始めていたのかもしれない。麗子は自嘲気味に笑うと、グラスの赤ワインをいっきに飲みほした。

「いい飲みっぷり。お酒好きなんだね」

今度は、男ははっきりと麗子に声をかけた。麗子は横目で男を見ると、肩をすくめるだけで肯定も否定もしなかった。

「一人で飲んでいると声かけられない?」

「まぁ、時々」

「もしかして、声をかけられるのを待っているとか?」

「違います。私はただおいしい食事とお酒を楽しみたいだけ」

「とか言って。いろんなバルで男ひっかけてたりして」

男はいたずらっぽく笑ったが、Mr.アベレージとの一夜を思い出した麗子は笑えなかった。飲み過ぎて知らない男と朝を迎えたことは、一度や二度ではない。昔はそれがきっかけで相手を好きになることもあったが、年齢を重ねるごとにそれすらもなくなった。

ワンナイトから生まれる恋はない。それなら無意味なことを繰り返すのはよそう。そう思ってはいても、飲み過ぎるとどうも理性のタガが外れてしまう。麗子は先週末のことを反省していた。

「冗談のつもりだったけど、マジ?」

「違いますって」

「ならよかった。あ、俺、祐二。よろしく」

麗子の逡巡もつゆ知らず、祐二は「乾杯」と、自分のグラスを麗子のそれに重ねた。

この記事へのコメント

Pencilコメントする

コメントはまだありません。

【バルージョ麗子】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo