英明が笑うと、美しいほど綺麗に並び、必要以上に真っ白な歯が現れた。健康的に日焼けした彼の肌と相まって、彼の歯はより一層白く輝いて見えた。
ともするとただのチャラい男にしか見えないが、彼の場合はゆっくりと落ち着いた話し方のせいか、シンプルで質の良い洋服を上手に着こなしているせいか、嫌な派手さは感じなかった。
身長173cm、中肉中背、少し切れ長な二重で、軽く鷲鼻気味の高い鼻が特徴的。彼の横顔に一目惚れしたと言っても過言ではないが、銀座で開業医という彼のスペックにもかなりの魅力を感じたのは事実だ。
香織は珍しく自分から猛アタックし、連絡先を交換してデートの約束を取り付けた。初めてのデートは東銀座のビストロ『ル ボーズ』で、美味しい料理を前に、会話も弾んだ。ただ、彼は一切お酒を飲まなかった。
「体質的に合わないんだ」という彼は、気にせず飲んでとワインを勧めてくれるが、今までのデート相手にはいなかったタイプで、香織は自分一人だけ飲むことに気が引けた。
お酒は飲まないが、美味しいものを食べることは大好きだという彼は、料理が運ばれてくる度にiPhoneで写真を撮り、満足そうな顔をしていた。香織は一人で何杯も飲む気にはならず、ワインは1杯でやめた。
数回のデートの後、初めて彼の部屋に泊まり、翌朝は手を繋いでカフェのモーニングを食べに行った。それから週末に会える時は彼の部屋に泊まるようになったのだった。
彼の部屋は約88㎡の2LDKで家賃は42万円。インテリアはシンプルで、リビングと寝室に大きな鏡があるくらいで、家具は必要最低限のものしか置かない主義のようだった。
彼の部屋で過ごす何度目かの夜に、ベッドの上で抱き合いながら「大好き」と言ったが、彼は白い歯をチラリと見せてキスするだけで、香織が望む言葉は結局くれなかった。
はっきりしない関係にやきもきしながら、彼を問い詰めて面倒な女だと思われるのも嫌で、曖昧な関係をもうしばらく続けることにした。
毎週のように会い、『イバイア』や『スモールワンダーランド』、『ヌガ』と東銀座界隈のレストランでデートを重ねているのだから、もう少し自信を持とうと何度も自分に言い聞かせた。
デートではいつも香織だけ1〜2杯のワインを飲み、彼は熱心に写真を撮っていたが、回数を重ねていくと、彼から写真を撮ってと頼まれることが増え、料理を前に、満面の笑みに白い歯を輝かせている彼の写真を撮ることが多くなった。
写真を撮ると、彼はすぐにそれをFacebookにアップし、「いいね!よろしく」と言うのだ。
そんな彼のFacebookは自撮り写真でいっぱいだった。銀座のありとあらゆるレストランやカフェ、自宅、ジムなどで、腕を伸ばして自分を撮っていたり、鏡に映る自分を撮っているほか、誰かに撮ってもらったであろう写真でいっぱいだった。
自宅の大きな鏡といい、ナルシストなのだなとは思ったが、楽しそうに写真をアップし、友人たちからの「いいね!」を喜んでいる彼は、可愛いと思えないこともなかった。







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