京都クエスト Vol.5

京都クエスト:世界のセレブリティたちがお忍びで訪れる3ヶ月待ちの茶筒とは

世界が惚れた京都老舗茶筒『開化堂』


タクシーで、祇園から「kaikado cafe」までは思っていたより近かった。七条大橋を少し上がったところで、渉成園という東本願寺のお庭の近くのようだ。カフェはアンティーク感漂う建物をリノベーションしたもので、天井が高く開放感がある、奥には中庭もあるところも京都らしい。


カウンターの中に立っていた男性に気づいて菊乃が声をかける。
「あら、八木さん。お店にも立っていらっはるんですか?」
「今日は友人が来るというのでたまたまですよ」

京都人たちのやりとりをみながら、通りが見えるテーブルに腰を掛けた。彼女の解説によると、お店の中に並ぶ金属の筒は茶筒らしい。京都の老舗の茶筒屋さんで、この間のミラノサローネでも高い評価を得ていたようだ。

「最近は、京都の若旦那さんたちも海外で活躍されること多いから、今日はカフェに立っててビックリしちゃった」菊乃の言葉に思わず息を飲む。

え、あのカウンターの中の雰囲気ある男性って若旦那さんなの?若旦那ってのは、なんかこう作務衣とか着て難しい顔してるいかにも職人さんみたいなものかとイメージしてたのに全然違うじゃない!菊乃との時間が新鮮で、すっかり忘れていた「若旦那にプロポーズされたの」という元カノ最後の言葉を思い出す。

まさか、あのイケメン職人がプロポーズした若旦那か?とも考えたが、どうやら結婚していているらしい。いちいち若旦那という言葉に反応する女々しい自分がイヤになり、ちょっと気分を変えようと席を立って棚に並ぶ茶筒を手にとった。

「この茶筒、蓋の重みだけで、すごく滑らかに閉まるんですよ」いつのまにか横に立っていた菊乃が顔を覗き込みながら笑顔を向けてきた。

この距離の詰め方にドキッとしない男はいない。八木さん、折角なので見せてあげて。慣れた手つきで若旦那さんが茶筒の蓋をはずし、軽く蓋を筒の上に置く。空気をゆっくりと押し出すように蓋が音もなくしまっていった。単に蓋が閉まるという言葉では表現できない美しさ、いっそ官能的と言ってしまった方がいい。


「こういうの、海外の方とか好きそうですよね。」との晃二の言葉に、そうなんですよ、と若旦那が続ける。ハリウッドのセレブリティや、著名な外交官さんもお忍びでやってきては、オーダーをいれていくらしい。今では早くても3ヶ月待ちのようだが、その理由もうなずける。

「私も家で紅茶の葉を入れるのに使ってるの。だからカフェでどんな風に茶筒が使われてるか見たかったの」と嬉しそうに店内を見回す菊乃。彼女が芸妓さんの時の姿を、今は全く想像ができない。

「これ素敵ですよね」と無意識に腕をとられて、店内を連れまわされる。ここまで喜んでくれているのなら、デートは成功といっていいだろう。朝のランニングが運んできてくれた幸運、やはり町は自分の足で歩くのが正解だ。



ロンドンのティーハウス「Postcard Teas」の紅茶を飲みながら、「今度、良かったら京都の美味しいお店教えてよ。また、一緒に行きたいな」とできるだけさりげなくデートの誘いをふってみる。

「楽しそうですね、でもいつ空くか中々わからなくて。それに晃二さん、京都に住んでないから、急には会えないでしょ」さすがは、もてなしのプロフェッショナル。断りもしないし、あからさまにも乗ってこない。

「でも、きっとまだすぐ会えますよ」そんな意味深なセリフを残して、慌ててお店を去っていった。気づいたらギリギリの時間になっていたようだ。

キスもしていないし、手を握ったわけでもない。でも、なんだろう、この高揚感。京都マジックは、いとをかし。

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