「私のポテンシャルの限界値は、大企業なら役員レベル。これが御の字。」
そう言ってサエコは、エスカレートする恋人の性癖に白旗を揚げ、関係を清算した後の合コンで出会った頭の後退した大企業役員について目を輝かせた。
その場にいたチャラチャラとした遊び人風情の弁護士は「自分の時価総額を高く見積もってる男との結婚ほど骨の折れる作業はない。」と、最初から目もくれなかったようで名前も覚えていないという。
「女性は、持って生まれたポテンシャルの幅があって、その実力値の限りなく最高の、ギリギリのラインの男でぴたりと止めれてこそ、真の賢い女なの。自分の実力値とかけ離れた大金持ちを狙うのも、逆に婚期を逃す恐怖からチキンになって、平凡な男で手を打つのも賢明じゃないわ。まして、その両者すら見極められず、婚期を逃す女は、最も愚かなんだけどね。」
そう言ったところで、店員がデザートの、チョコレートのテリーヌ運んできた。
既に腹十二分目の奈々は恨めしそうに目の前のいかにも濃厚そうな皿を見ていたが、サエコはとびきりの笑顔で早速手をつける。
オセロの角をとって全てを最後全てをひっくり返す女。
奈々は再度、インスタグラムに写っている男の額の波打ち際を見て苦笑いした。
欲しいものが明確な単純明快マテリアルガールにとって、頭の後退具合など、取るに足らないものなのだろう。
どんな状況になっても、最後、オセロの角をとって全てを黒にひっくり返すように必ず幸せを掴む人。
その女こそ、サエコなのだ。
奈々は、サエコの、サンダルウッドの妖艶な香りを思い出しながら考える。
—甘く平凡な女に見えて、近寄るほどにハマってしまうサエコさん。—
奈々は改めてサエコの一番近くでそのエスプリを盗み続けようと誓った。
ちなみに、あの高笑いしていたアンだが、大富豪の"提案"に戦慄するまでに、そう時間はかからなかったそうだ。
Fin.
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