このお店には牛肉を使った特製のコンソメスープがあるのですが、「スープ」は様々な具材が使われる上に、個々の具材が分からなくなっているので、
そのスープの材料の一つである肉を後から差し出すことで、食材の素晴らしさを味わうことができるからです。加えて
「前田敦子」=「お肉大好きっ子」
という情報も入手していたので、これぞ前田敦子を喜ばせる完璧な会食になることを確信しました。
そして、会食当日。
お店に現れた前田敦子を前にして、すでに「緊張死」しそうになっている私がいました。
前日に前田敦子主演の『もらとりあむタマ子』を観て復習しておいたのですが、この映画の中で、彼女は外見に気を遣わず家で漫画を読み漁るニートの役なのですが、
その役と、『ウェスティンホテル東京』にドレスアップして現れた彼女のギャップがあまりにも凄まじかったからです。
しかし私は
(落ち着け。今回の会食の準備は完璧なのだ……)
と自分に言い聞かせ、席に着いた前田敦子に対して『もらとりあむタマ子』の話をしながら、次の質問を彼女にぶつけました。
「前田さんの一番好きな映画は何ですか?」
――美女との会食も5回目になり、私は美女との会話における最強のノウハウを発見しました。それは
「とりあえず、映画の話しとけ」理論
です。
前にも書きましたが、私は日常生活のすべてを部屋の中でパソコンの前で過ごし、ディナーはほぼ大戸屋で済ませており、
私と美女とは生活は、原始時代とIT時代くらいの差があります。しかし、どれだけ私が反セレブ的な生活をしていたとしても、会話の冒頭を
「クリストファー・ノーラン」
とかで始めれば、突然、場にはお洒落な空気が漂い、美女と同じ土俵に上がれることが判明したのでした。
そしてこの日も私は、鉄板焼きを前にして、映画の話をするという美女への鉄板トークを繰り出したわけですが、「一番好きな映画は何?」の質問に対して前田敦子はこう答えました。
「『500日のサマー』です」
結論を言うと、こんな映画観たことも聞いたこともありませんでした。
ただ、問題は、彼女の言い方から察するに、500日のサマーは映画通の間では、むしろかなり知られた映画であることは間違いなく、私はとっさに、
「ああ、はいはい(アレね)」
と答えてしまったのです!
そして、地獄が始まりました。自分のウソがばれないように会話を取り繕おうとすればするほど緊張は高まり、何をしゃべって良いか分からなくなってしまったのです。
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