東京DINKS Vol.17

東京DINKS:空港へ向かう時に思い浮かぶ相手こそ、1番大切な人かもしれない

前回までのあらすじ

結婚後、子どもを持たない生活を選んだ太一と愛子。結婚前と同様に時間とお金を自由に使い、お互いを尊重し干渉しない2人。

太一の浮気相手・葵が突然家に訪れ、愛子は太一の浮気を知らされた。葵と同じ会社の先輩・寛は、愛子の昔の恋人でもあった。葵が太一と愛子とのゴタゴタを相談すると、愛子に未練のあった寛は自分のシンガポール移住について来ないかと申し入れる。太一と寛の間で揺れる愛子の決断は…?

東京DINKS第15話:34歳が思う、思い出したらきっと泣いてしまう夜の出来事

愛子はもう一度パスポートを確認し、ハンドバッグにしまった。次はiPhoneでメールを開き、フライト時間を確認する。21時のフライトまではたっぷり4時間以上ある。

まだ家を出る必要はないが、手持ち無沙汰で落ち着かないため、コーヒーを飲んだら出ようと決めた。海外へ行く時だけ、愛子の心配性な一面が顔を見せる。

コーヒーを飲み終え、カップを洗うと早々に家を出た。

羽田に着き、待ち合わせの時間まで1時間以上あるのを確認すると、5階の『EXPASA Café』に入り、展望デッキの向こうを飛ぶ飛行機を見ながらビールを飲む。空港で飲むビールは格別に美味しいのだ。

1杯目のビールを飲み終え、2杯目を迷っていたちょうどその時「お待たせ」と言う声が聞こえて愛子は振り向いた。



あの日、寛にシンガポールへ一緒に行かないかと言われた夜、愛子は全てを太一に話した。寛との偶然の再会、6年振りのデート、そしてシンガポールに誘われたことも。

太一はうなだれるようにして愛子の話をじっくりと聞いた。そして静かに言った。

「愛子は、その彼と一緒に、シンガポールに行きたいの?」

愛子は何も返さず、しばらく黙って考えた。

太一は今回の件で懲りて、しばらくの間は大人しくなるだろう。だが、おそらくまた浮気するのは火を見るより明らかだ。それでもなぜか、最後の最後は裏切らない、と信頼できるのは寛ではなく太一の方なのだ。情に厚いのが太一の良い所だから、とそれだけは自信を持っている。

もちろん、すぐに太一のことを許せるとは思えないし、いつかこの決断を後悔する日がくるかのかもしれない。それでも今、愛子が選んだのは太一だった。

同じような事が起これば、その時はまた一緒に乗り越えれば良いだけだ。許すことと許されることを、許し合った2人なのだから。愛子はそう自分に納得させた。

何も解決していないのかもしれない。だがこれが、2人の場合の着地点だった。

それから季節が一つ巡り、太一と愛子は久しぶりに休暇のタイミングを合わせ、旅行を決めた。行き先はハワイ、1週間の旅だ。

こんなことがあっても、2人はそれまでと同じように自由で束縛しない、東京DINKSらしいライフスタイルを変えることはなかった。相手を束縛することは、自分が不自由になることでもあるからだ。

一緒に海外旅行に行く以外で変わったことと言えば、食事を共にする回数や、太一が家にいることが少しだけ増えたぐらい。

太一と愛子が夫婦関係を再構築している間に、他の物事も少しずつ変化した。

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