東京いい街、やれる部屋 Vol.2

東京いい街、やれる部屋:京大卒の医者。派手な服装に違和感のある、彼の部屋とは?

外観は、悪くない。四谷三丁目の、彼のマンション


外苑東通り沿いの店を出て、荒木町を通りながら彼の家に向かう。この荒木町の街並みは小さな「神楽坂」を思い起こさせる。と言うのも、江戸時代は松平摂津守のお屋敷があり、その後は終戦まで花街として栄えたという名残から、石畳の道が多い。また、坂道が多く、必然と階段が多くなる。路地は複雑に枝分かれし、その路地裏にひっそりと佇む古くから続く店たち。それらはかつて同じように色街で栄えた「神楽坂」の街並みの特徴であり、荒木町も少し色めかしい街だ。

彼の家は、四谷三丁目から千駄ヶ谷駅方面に10分ほど歩いた外苑西通り沿いにあるデザイナーズホテルのような外観のマンション。後日、グーグル検索してみると、家賃は40㎡強で18万円。勤務年数と家賃の不釣り合いに疑問を感じるも、不動産業をしている両親の関係の紹介だろうと推測した。

色彩にメキシコを感じる家具。だが...


「散らかっていてごめんね。」

足の踏み場もない、というのは言い過ぎだが、少し乱雑な部屋に入り、床に置いてある本や服を拾っていく彼。床暖房付きのフローリングにひかれたラグマットはグレーと青がミックスされたボヘミアン調。

部屋の中央に置いてあるのは、細いフレームの3本軸で卵のように編まれた座面を支えている「アカプルコ・チェア」。また、椅子と同じく、このシリーズ独特のプラスチックの紐が巻き付けられているアカプルコのサイドテーブル。

ミッドセンチュリーデザインの中でも素晴らしくシンプルでモダンなこの椅子がどうしてメキシコの土地で生まれたのか、ということは分かりかねるが、このビビッドな色彩はメキシコでないと出せなかったかもしれない。天井が少し高めの部屋だから見栄えが良いということもあるが、スタイリッシュなアカプルコのインテリアセットによってこの部屋もだいぶ引き締まって見える。

しかし、そのアカプルコ・チェアを見た瞬間から気になることがあった。

なぜ、アカプルコをオレンジ色にしたの?


メキシコのビーチリゾートの地名から名付けられたアカプルコ。中米の灼熱の太陽の光にあたれば、このオレンジもさぞかし映えるだろうとは思うが、いかんせんここは東京である。灼熱の太陽もなければ目の前にビーチも無い。目が覚めるようなオレンジは、コンクリートに挟まれた無機質なマンションの一室で、少々居心地が悪そうであった。

しかし、このオレンジだけではない。それぞれの家具の色と材質の統一感の無さに奈々は耐えられなかった。医学書に溢れた本棚は黒のアクリル素材なのに、ベッドはすのこ素材の薄い茶色。グレーと青のラグマットの上にオレンジの椅子もまるっきり合わない。なぜ、こんなインテリアのセレクトができるのか…。100点満点中20点だと頭の中で勝手に採点を行う。アカプルコチェア・テーブルのセットが無ければ0点に近い。

突飛なカラーの洋服を着てくるのはこの部屋を見て合点がいった。そして、趣味の悪さは洋服だけでないことも分かった。優しさだけじゃ、は相手は選べない。その日、奈々は落胆しつつ、奥沢の家までタクシーで帰った。

次週も奈々の東京アラサー男部屋の徘徊は続く。


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