汐留タラレバ娘 Vol.1

汐留タラレバ娘Vol1:陳列棚の奥へと追いやられる、34歳独身女3人


会社の後輩・桜子ちゃんの結婚式は、空気が澄んで雲ひとつない真っ青な秋晴れの空だった。

桜子ちゃんのことはよく知らない。けど彼女にまつわる色んな噂がある。

「27歳を最高値」と決め、通常の女の何倍もの吟味とフィールドワーク(合コンとデート)を重ねたとか、その研究対象となった中には、あの若き起業家・国分与一がいるとか。結婚指輪はいらないからその代わりにR社のある男を正社員にして欲しいと頼んだとか、そして、その男が実は、桜子ちゃんの元彼だったとか。

真偽のほどはよくわからないけど、彼女の話は尾ひれ背びれがついていつの間にか都市伝説じみたものになっている。






森ビル51階にある六本木ヒルズクラブからの眺めは美しく、秋晴れの空に東京の街並みが模型のように広がっている。3万円のご祝儀は、アキコにとっては痛くないが、自分に返ってくる予定がない出費は、何だかやりきれない気持ちになる。しかし、そんなアキコだが、桜子の結婚式は、総額いくらかかっているかと心配になるほど豪勢だった。

会場装花は、枝物を中心にまるで森かと見紛うほどこんもりと活けられており、ウエディングケーキは、3mはあろうかと思うほどの巨大ケーキ。お料理は、フォアグラのナチュラルに、トリュフをふんだんに散らした大きな帆立貝のグリル、オマール海老のスープに、黒毛和牛のフィレと贅の限り。
極め付けの引き出物は、推定1万円を優に超えるバカラのロックグラス2個セットと、その完膚なきまでの結婚式に打ちのめされた気持ちになる。


島田アキコ
34歳。
化粧品会社経理部 課長補佐。

二橋大学卒業後、汐留にある化粧品会社に入社。華やかな世界に憧れて入った会社で、配属されたのは経理。出鼻を挫かれたアキコは、鬱屈としながらも、元来の真面目な性格も手伝っていつの間にか課長補佐という役職がついていた。同期の女性の中では、なかなかに出世している方だ。


式が終わると、クロークが空くまでの間、同じテーブルだったアキコの同期の貴理子となお美とトイレへ連れ立った。

「なんか・・・・すごい結婚式だったね。」

引き出物の紙袋の中に入っているバカラのグラスをチラチラと見ながら、言いようもない敗北感に心がボロボロになっていた。

「桜子ちゃん、さすがよねぇ。男性何人もを天秤にかけたら、こんな豪勢な結婚式できるのかね。」

貴理子(34歳)は、「さすが」という言葉でメラメラの嫉妬をオブラードに包んだつもりだろうが、語尾のトゲトゲしさに妬みがだだ漏れだ。松たかこのような和風の美人で、大学のサークルでは、とにかくちやほやされたらしい。しかし、交際相手にはご執心になり重い女になりやすいのか、気がつくとフラれてしまって未だ独身。

「でもさ、R社次期社長って言う割には、主賓の社長のスピーチで、そんなセリフ一言も出てなかったよね?実は違うんじゃない?」

相変わらずの洞察力で、後輩の幸せのアラを全力で探しているのは営業部のなお美(34歳)。なかなかの美人だが気が強い。間違っていると思えば上司であっても食ってかかるので、成績はいいのにマネージャー止まり。

「えーーー!それって超誤算!桜子ちゃん、あれだけ吟味したのに、結果それじゃかわいそうすぎる。」

貴理子は、かわいそう、という言葉とは反対に、顔がバラ色にほころぶ。二人は、きゃははははと高笑いをして、鏡の前に向かってファンデーションを埋め込んでいる。



3人の左手の薬指には揃いも揃って光るものはない。




「結婚したって絶対浮気するよ。」なお美は、バッサリと一刀両断。

「どんなにイケメンでお金持ちでも、浮気する人とか私無理—!」貴理子は、手をぶんぶんと顔の前で振って拒絶反応を示している。

「やっぱり、男は、真面目で、普通の男が一番!」達観したようになお美が言うと、34歳の女たちは深く頷く。

こうしてカラスがゴミを散らかすがごとく、ぎゃーぎゃーと騒いでいると、自分の境遇を棚に上げられるから不思議なもの。


しかし、その「普通の男」は、どこにいるんだ?


なお美がテカテカのグロスを塗り終わり、美人の面影を残す3人が揃ってトイレから出ると、横から男の声がした。

「あれ?島田さん?」

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