「キョウコとぶつかっちゃってるんでしょ?最終話への流れで」
「…そうですね」
薄く笑んだ大輝の肩を崇が親しげに叩いた。
「どんどんぶつかればいい。監督としては2人が100%納得した脚本を受け取りたい。ただ待つにも限界があるからさ。期限的な限界ね」
「申し訳ないです」
世界最大級の映像プラットフォームで来年配信予定の連続ドラマ。東京の繁華街を徘徊している女子高生と迷い込んでしまったお人よしの中年男性が偶然出会うところから始まる物語。
男性に暴力を振るっていたギャングの若者たちを、女子高生が圧倒的な強さで撃退する。それがきっかけになり、女子高生が人を探していることを知る男性は長く勤めていたIT企業をクビになった冴えない中年…というのが表の顔だが、実は政府のホワイトハッカーとして密かに活動していた過去があり、女子高生へのお礼としてその能力を使って協力することを申し出る。
一緒に過ごすうちに、女子高生は自分の家族を壊した男を復讐のために探しているのだと打ち明ける。そのために、違法な――どちらが勝つかを客に賭けさせる地下格闘技組織に所属し、銃以外の武器なら何でも使って良しという、時に命を落とすこともあるリングに上がり続けて強くなったことも。
驚きつつも、女子高生の痛みに寄り添い続けてくれる男性に、女子高生は恋をする。けれど復讐の相手を見つけたとき、その背後に、日本政府も絡んだ巨大な陰謀が隠されていたことが発覚。女子高生と男性は闘いながら逃げることになる――。
というのが、今回のドラマのあらすじで、その逃避行先が、男性の生まれ故郷でもある温泉街…という設定になり、今回のロケ地が決定していた。
今、キョウコと大輝は、温泉街での逃避行を経て東京に戻り、ラスボスと対峙するエンディングへ向かう、最終の2話の流れについて意見が対立している。2週間後には東京での撮影が始まることが決まっているため、もう猶予はないのだけれど。
「オレ的には2人が完璧に分かり合えた脚本(ほん)ができるまで永遠にでも待ってあげたいんだけど、撮影日のスケジュールがあるからね。だからキョウコもここに呼んでる。宿泊する部屋とは別に2人の作業部屋を1つおさえてるから、そこで存分に闘って仕上げてほしい」
「わざわざ…ありがとうございます」
「キョウコももう来てるから。頼むね」
ポンポン、ともう一度大輝の肩を叩いた崇が、「監督~」とスタッフに呼ばれた。去って行くその後ろ姿を見送りながら、大輝はふう~っと息を吐いて気合を入れた。
締め切りから2週間も遅れているのに待ってくれている監督、スタッフのためにも良い脚本に仕上げなければならない。
宿泊する部屋と執筆部屋。その2つの鍵をフロントで受け取ると、エレベーターへ向かった。
まずは宿泊部屋に荷物を置くと、すぐに夕食を頼み、運ばれてきた――関あじの姿造りや、豊後牛の溶岩焼き、このあたりの山菜を使った煮物を急いで食べ終える。仲居にすすめられた地酒、八鹿(かつしか)は断り、作業着…上下スウェットに着替えた大輝は執筆部屋へ向かった。
作業部屋の場所は、宿泊する部屋のある本館から渡り廊下でつながった、いわば離れの部屋だった。
― 鍵、開いてるな。






この記事へのコメント
大分のご飯が美味しそうだった。
小説の中の、別のストーリー面白い。