「え?」
「ルビーが、また捨てられずに済んだこと」
「捨てられる?」
「知らない間に母親がこの世から消える、っていうのはそういうことだろ。それが防げただけでも、ありがたい」
「…そう、ですかね」
「だから、ともみのお節介に感謝するよ」
お節介、って偽善者っぽくてイヤなんですけど…と恥ずかしくなったともみを、ミチが、なぜ?とちらりと見た。
「西麻布の女帝だって、お節介の固まりだぞ」
「え?」
「光江と書いてお節介と読む、ってくらいにな。あの人のお節介がなきゃ生き続けられなかった人間は、山のようにいる」
◆
『ちょっといろいろあって予定より遅くなっちゃって。今、仙台から新幹線に乗ったところ。だから大輝が家を出るまでに間に合わなそう。ごめんね、気を付けて行ってきてね。応援してる!』
ともみからのLINEに、大輝は口元をほころばせながらも、寂しくなる。ルビーの母親に会いに宮城に行くと言っていたともみが戻る前に、今度は大輝が撮影で九州に向かわなければならない。
1日でも会えないと胸がざわつく。愛おしい恋人に、『分かった、そっちも気を付けて帰ってきて。現地についたら電話するよ』と返信し、1週間分の荷造りの最終チェックをする。
「九州のロケは、大輝にも来て欲しいんだよね。山場のシーンばかりだから、現場で役者からもセリフについての相談が出そうだし。キョウコもくるよ」
今撮影中の配信ドラマの監督、門倉崇にそう言われて、大輝は今日東京を発つ。
大輝とキョウコが共同で脚本を書いているドラマの撮影期間が半ばを過ぎ、物語はいよいよクライマックスへと進んでいる。今回のドラマは監督の希望により、“順撮り”と言って、シーンの順番通りに撮影する方法をとっている。
― 現場に行くのは楽しいんだけど…。
やや気が重いのは、最終話の脚本の構成についてキョウコとの間で意見が割れ、ぶつかり合っている最中だからだ。監督がロケに大輝を呼んだ狙いの1つに、撮影期間中に話し合わせて決着をつけせる、というものもあるのだろう。キャリアではキョウコに圧倒的にかなわないけれど、大輝にも脚本家として譲れないクリエイション、物語があった。
― でも…キョウコさんと、同じ土俵で闘えるってだけでも感謝しないとな。
自分を鼓舞して、スーツケースを閉めた大輝は、この時、知る由もなかった。
キョウコに今何が起こっているのか。そしてキョウコの夫である門倉崇が…大輝を現地に呼んだ本当の狙いについても。
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