ミチはハーブティーに夢中な様子で何も言わない。でもともみは、ルビーがミチと光江に出会えたことを信じてもいない神様に感謝した。誰と出会うことができるか――出会いが人生を変えるのだと、今ならともみにもよく分かる。
「ミチさん、ありがとうございます」
「ん?」
― ルビーと、出会ってくれて。
「ルビーもありがと」
「何が?」
― 私と、出会ってくれて。
ともみの前に並ぶ2人の顔に“?”が浮かんでいたけれど、ともみはただ笑った。言葉にするとなんだか泣いてしまいそうだったから。
「ルビーが許せないのは当然だと思う」
「うん」
「でも私は今、ちょっとホッとしてる」
「…そ?」
「許さなくても、ルビーが明美さんに会ってくれたから」
「何それ」
「私がかなり強引に連れてきちゃったから、正直ずっとひやひやしてた。
本当なら他人が立ち入る問題じゃないし、ルビーが辛い思いをするのは分かってたのに。だけど、どうしてももう一度、2人に会って欲しかった。ごめん」
「とも姉が割とお節介なのは、よく知ってるからもういいよ」
ともみは、ごめん、ともう一度繰り返してから続けた。
「ルビーと明美さんが同じ空間にいて」
「…」
「明美さんを抱きしめるルビーが見れた。それだけでも、もう……上手く言えないけど……本当にありがとね、ルビー」
ルビーの瞳が揺れ、ともみから顔を背けて唇を噛んだ。けれどそれはほんの一瞬で。すぐに口を尖らせて、拗ねたようにともみを睨んだ。
「ありがとうとかさぁ。ともみさんはあの人の味方なの?」
「ルビーの味方だよ」
「でしょ?じゃあ、あの人の代理人みたいなコメントやめてくれる?」
「だね、私何目線なんだろ」
ともみが笑い、ルビーも笑う。ミチは相変わらず無言のままで、その視線は窓の外に向いている。
「勘違いして欲しくないんだけど、アレは別に抱きしめたわけじゃないからね。目の前で泣いている人がいたら邪険に扱えないでしょ。そんな感じだから」
照れたような、拗ねたような、その釈明に微笑みながらともみは、そっか、と相槌を打つ。するとしばらくして。
「ともみさんにお願いがある」
「いいよ、何でも言って」
「しばらく店を休ませて欲しい。アタシ――」
◆
仙台に戻る車内は、店員の女性が大量にもたせてくれたハーブの香りで満ち、清々しく心地が良い。それでも。
「なんか…寂しいですね」
「そうか?アイツがいないと静かでいい」
一緒に戻らないと言ったルビーの特等席だったはずの助手席に座ってしまったことを、やや後ろめたく思いながらも、ともみは、ルビーの決断が嬉しかった。
「アタシ、ここに残ってみる。あの人を許せるとは思わないけど、それでも……なんとなく答え合わせがしたいっていうかさ。もう少し話してみる気になった」
「これが最後だと思えば、ちょっとは我慢もできそうだから」と笑ったルビーは、近くに宿をとり、まずは一週間ほど残ってみると言った。そこでもカフェの女性が大活躍で、免許のないルビーのために、徒歩で病院に通える距離にある宿を紹介してくれた。
そこの名物料理だという牛鍋の話に分かりやすく食いついたルビーは、あっという間に仲良くなり、近藤さん、ルビーちゃんと呼び合うようになっていた。そのうちにルビーが明美の娘だということを知った近藤さんは、落ちるほどに目を見開いて嬉しそうに、バンバンとルビーの肩を叩いた。
「やぁだ~!!あなた明美さんの娘さん?でも、だと思ってたのよ、さっきから。だってそっくりだもの!母娘そろって美人さんねぇ~!」
さっきから?と3人同時に呆気にとられる。まるで少女のような明美と、褐色の肌を持つハーフでグラマラスなルビー。外見は全く似ていない2人なのに、それとも近藤さんにしか見えない、そっくりなポイントがあるのか。ただ調子がいい人なのか。
それでも近藤さんの陽気さに、ルビーがここに滞在する間、安心して頼る人ができたと、ともみは安心した。
「…どうなるでしょうね、ルビーと明美さん…」
「どうなっても、今までよりましだろ。これ以上悪くなることはない」
そうだといいですけど…と、窓の外を見たともみに、ミチが、「ありがとな」と言った。






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