A2:交際前後の落差と、母親への態度が酷かったから
共通の友人の紹介で出会ったこともあり、私は勝手に「この人なら大丈夫」と盲目的に捉えていたのかもしれない。
それに、当初からお互い結婚を意識していたが、次第に「ん?」と思うことが増えていった。
まず、付き合い始めて1ヶ月も経たないうちに、LINEの頻度が落ちた。毎日来ていたのが、2日に一度になった。
そしてデートも、変わった。
気がつけば私が店を調べることが増え、どこに行きたいか聞いても「どこでもいいよ」と言う。
彼に選んでもらうように頼むと、交際前とは違い、本当にどこでもよさそうな店を、何も考えずに選んでくる。付き合う前に三日かけてリサーチしていた男と、同じ人間とは思えないほどだ。
「最近、健二くんは忙しいの?」
そう聞いてみたものの、健二は交際前とは別人のようだ。
「まあ、ちょっとね。仕事が立て込んでいて」
「そっか。大変だね。でもさ、たまには二人で、外でデートしない?最近お家デートばかりだし」
「そうだよね…。どこか行きたい所あれば、教えて。店、見とくから」
交際後、健二とは二人で外食へ行く機会も減った。
でもその不満を言ったところで、何も変わらない。むしろ不満を口にすれば、「じゃあどうすればいい?」と返ってくる。
そういうやり取りに、段々と疲れていく自分がいた。
付き合ったら関係が落ち着くのは、仕方がないとわかっている。それは理解できる。
でも健二の場合、落ち着くスピードが早すぎた。付き合う前のあの全力さが嘘だったみたいに、するするとトーンが下がっていった。
― あの頃の健二は、素敵だったな。
どちらにしても、私の中でじわじわと不満が募っていく。そんな中、追い打ちをかけるかのような、決定的な出来事があった。
それは、付き合って1年くらい経ったある夜のこと。急に、健二が彼のご実家へ誘ってきた。
「真帆、ゴールデンウィークって、忙しい?よければ、実家に来ない?」
「え?それって…」
― 遂に結婚前のご挨拶ってこと?
「まぁ、そんな堅苦しい感じではなくて、一応」
「わかった」
「じゃあ実家に伝えておくね」
急に心臓がドキドキして緊張してくる。
この時は、「遂に私たちも結婚か…」と思っていた。でもその後、「やっぱりこの人とは無理だ」と悟ることになる。
それは、私の家で二人でいるとき。健二のスマホが鳴った。
しかしスマホに表示された名前を見るなり、「げ…」と言ってとても嫌そうな顔をしている。
「出ないの?」
そう言うと、「んー」と言いながら、仕方なく電話に出た健二。
そして、この電話に私は相当ショックを受けた。
電話をしている健二の隣にいたので、嫌でも会話が聞こえてくる。この時の健二の態度はとても威圧的で、冷たい言葉ばかりその人に投げかけていた。
「わかったから、もういい?今、こっちは忙しいんだよ」
― 結構キツイ言い方だな…。
そう思っていた。ただ驚いたのが、電話を切ると、私に対してこう言ってきた。
「オカンからだった。年を取れば取るほど、面倒くささが増していって」
その瞬間、私の中で何かが、すとんと落ちた。
― この人は、自分にとって身近な存在を、雑に扱う人なんだ。
「私が行くことは、もう話したんだよね?」
「うん、それはLINEしといた。真帆のことも、根掘り葉掘り聞こうとしてきたから、適当に流しといた。会った時、面倒だったら適当でいいからね」
連絡が減ったのも、デートの準備を手抜くようになったのも、全部同じこと。
身内になると、急に態度が大きくなるのだろう。
そして何よりも、「男性の結婚後の奥さんへの態度は、母親への態度を見ればわかる」とはよく聞く話だ。
健二の、彼のお母様への態度を見て、結婚後の自分の姿が見えるようで、ゾッとしてしまった。
◆
それからしばらくして、私から別れを切り出した。
付き合う前だけ全力の人がいる。それ自体は、珍しくないと思う。
でも私が別れを決めたのは、手を抜かれたからだけじゃない。手を抜く相手の選び方が、わかってしまったからだ。
「この人に何をしても逃げない、平気だ」と思った相手に、人は無意識に手を抜く。それはお母さんへの電話で、はっきりと証明されていた。
大切にしたい相手には、手を抜かない。当たり前のことだけど、それができる人と、できない人がいる。
そして身近にいてくれる人こそ、大切にすべきだと思う。
27歳の私には、それを見極める時間が、まだある。そう思って前を向くことにした。
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