「…それって…」
もしかしてミチは、明美の余命についても感づいているのだろうか。そんなわけはないという否定と、聡すぎるミチならありえるのかもという肯定が同時に浮かんだともみの脳内を読んだように、ミチが続けた。
「ただ想像はつく、って話だ。突然会いたいと言ってきた母親に、多分また…どうしようもない事情とやらができたんだろうってことくらいは」
どこまでも深い黒の瞳が、また、ともみを絡めとる。
「ルビーはお前のことが大好きだからさ」
「…え?」
ミチの口から大好きという言葉が発せられた意外さに固まったともみを、ミチが笑った。
「ともみの言うことなら、ルビーは…多分、受け入れるよ。最初は反発したとしてもな。だから、アイツが…また、何も知らないままに捨てられる――ってことだけは、防いでやって欲しい」
また、何も知らないままに捨てられる。ともみの胸の中に住み着いてしまった6歳のルビーが、グッと唇を噛んで涙をこらえている。頼むよ、とぶっきらぼうなミチの呟きに涙腺が緩みそうになり、ともみは慌ててテンションを上げた。
「ミチさんって、ほんといい男ですよね」
「あ?」
「モテるのわかります。私のタイプじゃないけど」
バカにしてんだろ、と睨んだミチの口元が緩み、ともみも笑いながら続けた。
「モテ男のミチさんに、忠告しときます」
「なんだよ」
「ルビーはたぶん、というか絶対、諦めませんよ」
「…」
驚きのない無言は、すでにルビーにそう宣言されたからだろう。それでこそルビーだ。一度や二度フラれたくらいで、諦めるわけがない。ともみは、今もミチを愛するミチの元カノ、メグに罪悪感を覚えながらも続けた。
「私は、ルビーの恋が上手くいってほしいです」
「……妙なお節介はするなよ」
「だって特別な女の子なんですよね?」
「だから、それは家族として…」
「わかんないですよ。私もずーっと、大輝さんにはともみちゃんには本気になれないって言われてきましたけど。大人の男女の関係には何があるか分からないものですから」
「……何ドヤってんだよ」
― ヤバ。調子に乗り過ぎた?
ミチの強面が困ることが珍しくて、つい、からかい過ぎた?と反省したその一瞬…カウンターに置かれていたともみの手を、ミチの大きな手が包み込んだ。
「えっ?な、な、んですか!?」
慌てるともみの反応を楽しむように、ミチはゆっくりとともみの手を持ち上げていく。
― こんな顔もする人なの…!?
大輝とは種の違う、危険を承知で誘いこまれてしまいそうな、アンダーグラウンドの影をまとった笑み。
「ミ、ミチさん…?」
「大輝とはずっと……大人の関係、ってやつだったわけだろ?」
「…え?」
ミチの節張った指に弄ばれた指先に一気に火が灯り、その熱にうろたえるともみを楽しむように、ミチの薄い唇が妖艶に歪んだ。
「オレもそういうのなら割と得意だけど。大輝とどっちがいいか…試してみるか?」
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