「私は奏には復讐しません。わざわざ私が罰さなくても、彼女はもう、地獄に片足を突っ込んだようなものですから」
「また“地獄”…」
「ええ、でも氷の地獄というよりは、灼熱の地獄、です」
麻莉奈の炎に焼き尽くされるのですから、と紗和子は小さくマッカランを食んだ。
「あの2人は生物としての熱量が違いすぎるんですよ。麻莉奈は必ず、奏に飽きてしまう。それよりも先に、奏が壊れてしまうのか、それとも2人で傷つけあうのか――とにかく2人の“真実の愛”とやらは永遠じゃない。奏もそれに気づいている。気づいているのに、恋の業火に焼かれ、絡めとられてしまった。もう自分からは離れられないでしょうね」
紗和子は「そして、もう一つの間違いは」とルビーに視線を戻した。
「私が奪われた“一番大切なもの”とは、奏のことではないということ。もちろん彼女のこともとても大切でした。でも一番と言うならば……彼女に好意を寄せられたずっと前から、私が何十年もかけて築き上げてきたもののことです」
トン、トン、と紗和子が自分の胸を叩く指先がライトを受け、朝顔が光る。
「私の誇り。それは私とアーティストの間の、絶対的な信頼関係です。
無名のアーティストと出会い、育て上げるまでには時間がかかります。そのために専属契約を結ぶのですが、私はこれまで――自分が育てているアーティストを、途中で誰かに引き抜かれたり、アーティスト自身が移籍を望んだり、ということがありません。もちろん裏切られたこともない。私がこの世界で生き始めてもう30年近くが経ちますが、その間一度も、です。
それはひとえに、私というギャラリストの仕事を、アーティストたちが、心から信頼してくれていたからだと自負しています」
それは…と遠慮がちにともみは口を開いた。






この記事へのコメント
いやー安い日用品とかのデザインは、簡単にゴミ箱行きになる所までこだわるのかなぁ…。 例えば草間彌生氏なんて食器から文房具、傘やら食品パッケージ、ヴィトンやビルとのコラボまで幅広いけれど「耐えられない」とか思わないような…。 凡人が考えた復讐劇は所詮凡人レベルで終わるのかも?!