A1:真剣だったからこそ、下手に手を出したくなかった。
僕は弁護士という職業柄、人の「言葉」にとても敏感だ。証言の矛盾を見抜くのが仕事ということもあり、日常会話の中でも、無意識に相手の言葉を精査してしまう癖がある。
これは恋愛においても同じで、これまで付き合った女性たちに対しても、どこかで「本当のことを言っているか?」という視点が抜けない。それが原因で、長続きしないこともあった。
でも、真由は違った。
真由と最初に会ったのは、大学の同級生からの紹介だった。「僕らと同じ大学の後輩の子なんだけど、すごくいい子がいて。慶に紹介したい」と言うことで、『apéro. wine bar aoyama』で、初めて真由に会った。
ネイビーのジャケットに白のスカートで現れた真由は、清楚さの中に品が漂っていた。最初は、お互いぎこちなかったけれど、真由が僕の方をじっと見つめて、こんなことを言ってきた。
「あの…何か、運動されていたんですか?めちゃくちゃ体格良いですよね」
実は社会人になってから太ってしまったので、ここ数年ジムへ積極的に通い、体作りを頑張っていた。それを褒めてもらえた気がして、思わず笑顔になる。
「え?わかりますか?最近、運動頑張っていて」
「そうなんですね」
そこから、この日は仕事の話をしたり、お互いに少しずつ知っていく…という感じだった。
「IT系の営業って、何をするんですか?」
「色々とあるんですけど…」
そしてこの翌日。僕は早速、彼女を食事へ誘うことにした。
― 慶:昨日はありがとうございました。良かったらまたご飯でも。
すぐに日程も決まり、初めて二人でのご飯は、神楽坂の鉄板焼き屋さんにした。もちろんこのデートも楽しくて、すぐに3度目のデートを迎えることになる。
しかしこのデートで、僕は色々と気がついた。それは、仕事の話や、将来の話をしている時のことだった。
「じゃあ慶さんは、いつか独立されるんですか?」
僕が所属している法律事務所は、名も通っているし規模も大きい。過去の女性たちは、事務所の名前を聞くと目を輝かせる人も多かった。それに加えて、弁護士の年収をなぜか世の婚活女性たちはよく知っている。事務所名や年齢などをネットでサーチすれば、大体の金額が出るからだろう。
「うん。やっぱりいつかは自分の事務所を作りたくて」
しかし、真由は僕の想像とはまったく違う反応を示した。
「すごいですね!応援します」
目をキラキラと輝かせながら、僕に対して屈託のない笑顔を向けてきた真由。この反応が新鮮であり、同時に、彼女からまったく“計算”が見えてこなかった。
「ありがとう。そう言ってもらえると、心強いよ」
― 彼女には、虚栄心とかがなさそうだな。
それが、僕が最初に出した結論だった。
この仕事をしていると、「弁護士という職業」に惹かれる女性と、「僕自身を好き」という女性を、何となく見分けられるようになってきた。
真由は、明らかに後者だった。







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