「つまり麻莉奈さんって人が、それ?悪魔の才能がめっちゃあるってこと?」
「才能というよりは、天性ですね、麻莉奈の場合は。ただし本人は至って純粋です。誑かそうとか騙そうとかの計算がないのに、人を無意識で魅了し、破滅させてしまう」
悪魔と純粋。魅了と破滅。
相容れない組み合わせの連続に混乱したのか、首をもげそうなほど傾けたルビーに思わず吹き出しそうになりながら、紗和子のチェイサーをつぎ足す。マッカランの減りが早いのだ。
「私がいた世界にも、一定数いました。魔性…魔力としかいいようのない…そこにいるだけで周囲を魅了してしまう人達が」
ともみの同意に、紗和子が、「人間の外見だって、魔力になり得ますから」とさらりと答える。
「麻莉奈は…作品を作るためなら、モラルや人の道を外れることなど些末事。それが悪だという自覚もないから、罪悪感を持つこともない。自分の才能がどれほど稀有なものなのかということを知っているからです。
でも、私と出会った時にはまだ…彼女は自分の才能に気がついていなかった。それなのに、私が見つけてしまった。だから皮肉ですけど…悪魔として目覚めさせたのは私、なのかもしれませんね」
◆
紗和子が麻莉奈を見つけたのは、ほんの偶然。バルセロナの路上だったという。2人の出会いが3年前だということにともみは驚いた。たった3年で麻莉奈は、作品に何億もの価値が付き、世界中で個展が組まれる有名アーティストになったということなのだから。
けれど、それがアート界の女帝に“見つけられる”ということだと納得もする。紗和子がその日、麻莉奈がいる場所を通りかかったことで起こったサクセスストーリー。その一瞬の出会いの確率を計算すれば、どれほど天文学的な数字になるだろう。
麻莉奈は世界的なIT企業に勤める父の仕事の関係で、幼い頃から海外を点々とする生活を送っていた。けれど、その奔放な性格と衝動的な行動ゆえに学校生活になじめず、実質ホームスクーリングという形で、家庭学習をしていたのだという。
「モンジュイックの丘をご存じですか?バルセロナ市街と地中海を一望できる場所なんですが」
ともみとルビーは同時に首を横に振った。
「ジョアン・ミロ美術館とか、カタルーニャ美術館がある丘で。私はその日も1日買い付けに回っていたのですが、期待外れのものばかりで。気分転換に美術館に行こうと思ったんです。
7月のあの日…海を照らす日の光が見ていられないほどに眩しかったことをよく覚えています。世界は怖いくらいに明るかったのに、私は疲れ果てていました。普段なら美しいと思える丘の坂道の緑にさえ、寂しさを感じてしまうくらいに。
そんなときでした。坂道を下りる途中で、誰かが歌っているのが、ふと、聞こえてきたんです。お世辞にもうまいとはいえない…調子の外れた下手な歌声でした」






この記事へのコメント
毎度毎度ルビーのリアクションは可愛い過ぎるね♡