港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:「夫婦仲はよかったのに…」海外出張に行った夫と音信不通に。2週間後、発覚した衝撃の事実とは
Customer 7:小酒井明美(こさかいあけみ・44歳)/ルビーの母親
「おかしな女とは、私のこと。つまり、私と結婚したとき、既にルビーちゃんのお父さんには、アメリカに奥様とお子さんがいた。私とは重婚だったんです」
そう話す明美のルビーを伺う様子から、ルビーには初めて伝えているのだとわかる。けれど、当の“ルビーちゃん”は驚くほどに無反応だった。
「彼は私と会うことを避けたりはしませんでした。むしろ日本に戻ってきたらすぐ、彼の方から連絡をくれた。そして泣きながら…私に謝りました。彼は日本語が上手な人だったけれど、ごめんなさい、と繰り返すばかりで」
ルビーは無表情のままだ。明美もただ、静かに続けた。
「私と出会って恋に落ちて。出会うのが遅すぎたという言葉の悲しさが初めて理解できたと彼は言いました。私と離れることができず、自分が既婚者であることを告げるべきだと何度も思ったけれど、私を失いたくなくて言い出せなかったそうです。
そして私が妊娠したとき…心の底から喜びがこみ上げて、やっぱり自分たちは運命で結ばれているんだと思ったんだと。だけど、アメリカの家族を捨てることもできない。でも、アメリカと日本を行き来する生活ならば、2つの家族を持つことができるんじゃないか、2つの家族、どちらも精一杯幸せにできれば許されるんじゃないか、って」
— 何一つ許されないと思うけど。
欲深い自分を美化する卑劣な男。その悪質な言い訳にともみは心底げんなりし、驚いた。明美の口調と表情が、まるで美しい日々を懐かしむようなものだったからだ。
「まさか、彼の言い訳を受け入れた…というか許したわけじゃないですよね」
ともみが聞くと、明美は小さく笑った。
「私は21歳で妊娠して結婚しました。確かに私はその時、世間知らずな子どもだったけど、それは許してはいけないことだということくらい、分かっていました。もう一つの家庭にもお子さんがいることを思うと…これ以上彼と暮らすことはできない。だから別れを選びました。
でも…本当に、本当に…大好きだった人で…母から猛反対されて、勘当するって言われても、彼を選んだ結婚だったから。
彼が…ダメだとわかっていても、私との恋を捨てられなかったと言ってくれたこと、本気で愛してくれていたのだということだけは、なんとか信じたかった。そうしないと…」
言葉に詰まった明美の視線が落ちた。ともみはその先を待ったが、明美は何も発さないままで、ともみは疑問をぶつけてみることにした。
「そもそも、今の日本で重婚なんてできるんですか?日本で婚姻届を出したんですよね?なのに明美さんだけじゃなく、役所まで騙すことなんてできるんですか?」
ゆっくりと顔を上げた明美は、「だから私も全く疑っていなかったんです」と、説明を始めた。
◆
アメリカ人と日本人のカップルが東京で結婚するとき、役所に提出するのは、婚姻届、パスポートなどの本人確認書類、それに『婚姻要件具備証明書』や『宣誓供述書』と呼ばれる、その人が独身であることを証明する書類だという。
「私たちが婚姻届を提出したのは港区役所でしたけど、大使館で作った彼の独身を証明する宣誓書とパスポートを出したら、あっさりと受理されました。こんなに簡単なんだねって、2人で驚いたくらいでしたから」
その“独身を証明する書類”は、アメリカ大使館において本人の宣誓をもとに作られるだけで、本国から戸籍のようなものを取り寄せて…などの照らし合わせをされることはほとんどないらしい。さらに当時はまだ、現在のようなデジタルによる国際的な情報連携も、簡単にはできない時代だったことも影響したのかもしれない。
つまり本当はアメリカで結婚している人でも、独身だとウソをついて宣誓してしまえば、日本での結婚はできるということ。こうして2人は夫婦となり、ルビーが生まれ。3ヶ月に1度ほどのペースで夫がアメリカに戻ることを出張なのだと信じたまま、家庭生活が続いていくことになった。
ワインや食材を取り扱う輸出入業で財をなしたルビーの父親は、独占販売の人気商品を多く取り扱い、かなり裕福だったという。偽りの家族は、当時六本木に完成したばかりで話題になっていた超高級レジデンスに住み、何不自由ない暮らしをしていたらしい。
家賃は、家族で住む広さの部屋なら、賃貸で最低月100万円、分譲であれば10億円近いのではないか。それだけの財力を持つ男にとっては、2つの家庭を養っていくことは、全く問題がなかったのだろう。
物理的には…だが。





この記事へのコメント
本当にこのライターさん素晴らしい。