A1:そこまで大きく盛り上がらず、何も引っ掛からなかったから。
真子と出会ったのは、マッチングアプリだった。商社勤務の32歳という悪くないプロフィールのおかげか、正直たくさんの女性から「いいね」が来た。
そんななか、目に留まったのが真子だった。
音楽関連会社勤務の27歳で、1枚目はカフェで撮ったと思われる可愛らしい笑顔の写真で、2枚目はピアノを弾いている写真。横浜にある女子大出身…というところまで、隅々から育ちの良さが伝わってくる。
僕が「いいね」を返してメッセージのやり取りが始まり、早速会うことになった。
待ち合わせ場所の外苑前のカフェに、白いコートでやってきた真子は、ふんわりした雰囲気で写真そのままだった。マッチングアプリで出会う人は、第一印象が大事だと思う。
その点、真子は初対面の印象がとても良かった。
「初めまして、遼太郎です」
「初めまして、真子です」
簡単な挨拶を済ませて、色々と話をした。
「遼太郎さんは、都内ご出身なんですか?」
「僕は愛知です。真子さんは?」
「私は実家が目黒にあって」
「えぇ、めっちゃお嬢じゃないですか」
「いえいえ、全然ですよ」
話せば話すほど、上品で柔らかな真子。「素敵な人だな」という印象が強く残っていく。
「真子さんって、めちゃくちゃ可愛らしいですね。ほわっとしているというか…怒ることとか、ありますか?」
「怒ること?ほぼないですね…」
「ですよね。そんな感じがします」
ただ気がつけば、僕がひとりで話す時間が多かった気がする。だから僕はちゃんと彼女の話を聞きたいなと思い、食事へ誘ってみた。
「よければ、次はお食事でもどうですか?」
「はい、ぜひ」
こうして、次は本格的なデートをすることになった。
その日、僕は恵比寿にあるイタリアンを予約したのだけれど、この日も真子はふわっとした上品な雰囲気が漂っていた。
「素敵なお店の予約、ありがとうございます」
「いえいえ。来てくれて、ありがとうございます」
「真子さんは、お食事は何が好きですか?先に聞けば良かったと思ったのですが…」
「イタリアン、好きなので嬉しいです!あとは…料理ではないですが、カフェ巡りとか好きです。遼太郎さんは何が好きですか?」
「カフェ、いいですね。僕は料理のジャンルでいうと和食が好きかな」
ただ、今日も途中で気がついた。僕ばかりが話していることに。
― あれ?もしかして、このデートつまらない?
いい子だし悪い点は何もない。ただ逆に、だからこそ何か特別に「すごい面白い!」とか、興味が湧くといった感情があまり生まれてこなかった。
言うならばサラサラと、穏やかに時間が流れていく。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ。また、ご飯行きましょうね」
まったく悪くはないし、結婚するなら真子のような子がいいのだろう。でも特別引っかかりもなく、向こうが楽しいと思ってもらえたのかどうかも不明だ。
だから何となく、このデートで終わってしまった。
でも偶然の導きなのか、僕たちはもう一度出会うことになる。







この記事へのコメント
もっとほっこり出来るライターさんのを連載を読みたい。クリスマス時期は例年不定期更新の人気連載を読めたのに、今年は無さそうで残念。