A2:家に誘導しようという魂胆が見え見えで気持ち悪い。
昌也との初デート、彼は恵比寿にある和食屋さんを予約してくれていた。しかし、私はお店のリンクが送られてきた時点で、何となく嫌な予感がした。
― また恵比寿…?
しかも、微妙に彼の家に近い。
「まさか、また家に呼ぶつもり?いや、違うよね…。たまたまお気に入りのお店かもしれないし」
そう気を取り直して、私は彼とのデートへ行くことにした。しかしデートをしていくうちに、「やっぱり違う」と思うことになる。
昌也が予約してくれていたのは、とっても素敵なお店だった。落ち着いた雰囲気で、客層も良い。
「由梨ちゃん、何飲む?ビール?」
「どうしようかな…ワインあるなら、グラスで頂こうかな」
「ワイン、好きなの?」
「はい!この前も1軒目で実はずっと飲んでいたんですよ」
「それは気が付かなかった…」
そんな会話をしていると、昌也は急に私の年齢を聞いてきた。
「女性に年齢を聞くのは失礼だと重々承知しているけど…由梨ちゃんって、今何歳だっけ?」
「私は32歳です。昌也さんは?」
「僕は今34歳で、来年の1月で35歳になるよ。だから、ほぼ由梨ちゃんと同世代だね」
「本当ですね。昌也さん、ご結婚は…?」
「一度もしたことないんだよね。由梨ちゃんは独身だよね?」
「はい、もちろん独身です。結構本気で結婚したいんですけどね〜なかなか出会いがなくて」
「たくさんいそうなのに!意外だね。由梨ちゃんとか、いい奥さんになりそうだけどな」
何げなく放った昌也の一言に、私はどう反応すべきなのだろう。
男性は、誰に対してもこういうことを言うのだろうか。それとも特別な人にしか、言わないのだろうか。
「昌也さんは、結婚願望はあるんですか?」
「もちろん。いい人がいたら、今すぐにでも結婚したいくらい。むしろ、付き合うとかもいらないかなと思って。ゼロ日婚でもいいかなって思っているよ」
― なるほど、結婚願望はあるんだ。
これは大きなプラスだ。しかし少し昌也に気持ちが傾きかけた瞬間、彼は一気に興醒めすることを言ってきた。
「この後どうしようか。前みたいにうちで飲み直してもいいし…」
― はぁ…。やっぱり目的はそっちか。
どうして、初デートでこんなにもわかりやすい行動をするんだろう。もう少し上手に、下心は隠せないのだろうか。
「昌也さん、ワガママ言ってもいいですか?私、ワインが飲みたくて」
「そっかそっか。ごめん、ワイン買っておけば良かった。今日は家にワインがないな…」
違う、そうじゃない。家にワインがあるとかないとか、どうでもいい。
「じゃあまた今度にしましょう!」
「そうしよう!じゃあさ、次回ワインを買っておくから、僕の家でご飯作るとかどう?」
「私、ワイン持って行きますよ」
「ありがとう」
ひたすら終着地点を家にしようとするその行為が、大間違いだ。
初デートでここまでわかりやすく下心を出されると、女性は急速に冷めていく。
せっかくあった可能性も、ゼロどころかマイナスになることを、教えてあげたくなるくらいだ。
この発言をされた時点で、私の中で、彼は“完全にナシ”になった。
「由梨ちゃんと一緒にいると、楽しいな」
「私もです。こんなにデートで笑ったの、久しぶりかもです」
「もうさ、このまま行ったら僕たち付き合っちゃいそうだね」
もう二度と会うことのない昌也に対して、別にどう思われてもいい。だから適当に話を合わせてみる。
「本当ですね〜」
「次のデート、楽しみにしてるね」
「私もです」
― この人、焦りすぎ。むしろ私って、そんな軽い女に見えるってこと?
余裕がない上に下心も見え見え…そんな男性、「もう一度会いたい♡」なんて思うわけがない。
それに軽視されているようにも感じるし、失礼だと思う。
年齢を聞いてきて、結婚願望をちらつかせるあたりも「家に誘導するための、ただの口説き文句?」とも思い始めた。
積極的なのはいいけど、昌也の積極性は完全に見当違い。だから私は、たった一度のデート以降、連絡を返すのをやめた。
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