結局、しばらくの間メグの涙は止まらず。ミチの顔がどんどん心配そうに歪み、ソファーから立ち上がりそうになったところで、ルビーが止めた。
「ミチさん、今メグさんを抱きしめようとしてるでしょ?ダメだよ」
まさに図星だったようで、浮かせた腰を気まずそうにソファーに沈めたミチに、ルビーは、ミチさんはもう帰った方がいいかも…と言い出した。
「…お前、騙し打ちのように呼び出しといて、今度は帰れと?」
「だって、話はついたし、ミチさんの今日の役割は終了したんだもん。この後はミチさん抜きの方が話しやすそうだしさぁ」
と、ルビーは全く悪びれる様子もなく、どうぞお帰り下さいとばかりに、手のひらで、Sneetの入り口のドアを指し示した。
ミチは、ギロリとルビーを、そしてともみも睨んだあと(たぶん本人は睨んだつもりがない)、溜息をついて立ち上がると、上着を手にし、何も言わずに入り口へと向かった。ドアを開けると一瞬振り返り、メグを見つめたその切なげな視線に気づいたのは、ともみだけだった。
◆
そのあとは、ルビーの仕切りで女子会となった。Sneetの個室に移り、カラオケで失恋ソングを何曲か歌った後(ルビーとメグが)、ようやく涙が出なくなったメグが言った。
「ともみさん、光江さんに伝えてもらえる?資料を頂きます、と。そしてもう、ミチには会わないってね」
言葉を返せないまま頷いたともみに、メグがにやりと笑った。
「悪いけど、光江さんの力を利用させてもらう。まずはリリアを助けて、彼女の生活の安全が保障されるまで、私は現地で動こうと思う。それで全てが安心できる状態になったら日本に帰ってきて、今度は私からミチに告白する」
何年後になるかわからないけどね、と宣言したメグに、ルビーが、イエーイ!だと思った~!とカラオケマイクで叫び、次の曲のイントロが流れ始めた。それってもう二度とミチには会わないという光江との約束は破ることになるのでは?という疑問を、ともみは苦笑いで心に秘めた。
「フラれたのにもう一度ミチに恋しちゃった。だってあんないい男、他にいる?ますます惚れ直しちゃうよ、あんなの」
爆音の中、ルビーが歌い出すと、メグは声を張り上げるようにして、ともみに続けた。
「今日から片思いが始まったって感じ。まずはリリアを助ける。それは最優先事項だし、戻れるのはいつになるかわからないけど…もう甘えて奪うだけの女は卒業する。今度こそ――自分の手でミチを幸せにできる、いい女になって帰ってくるから」
▶前回:「今でもまだ好き?」別れて10年経つが、付かず離れずの元恋人に本音を尋ねたら…
▶1話目はこちら:「割り切った関係でいい」そう思っていたが、別れ際に寂しくなる27歳女の憂鬱
▶NEXT:11月25日 火曜更新予定






この記事へのコメント
ミチは待たないとは言ったけど、ほかの恋愛するつもりは全くないだろうね。“本当に好き同士” だから最後は絶対一緒になる。