「さっき、光江さんに試されてる気がするって思ったけど…試されてるのはメグさんじゃなくてアタシたちだったんじゃないかな。つまり、TOUGH COOKIESの店員として、今のメグさんのために何ができるのかってことが試されてる。そのために光江さんが意地悪BBAを演じたんじゃない?」
もちろんメグさんとミチさんのことを本気で心配してるってことは前提でね、とルビーは続けた。
「今日、メグさんの話を聞いて思ったのは、メグさんがミチさんへの罪悪感に縛られて、本音をミチさんにぶつけられてない。自分が本当はどうしたいのか、自分でもわからなくなっちゃってる感じがするってこと」
沈黙で答えるように、メグがうつむくと、ルビーはミチに視線を移した。
「それはミチ兄も一緒で。ミチ兄は…メグさんの幸せのためなら自分の気持ちなんか簡単に隠せてしまう。そんな風に2人ともが自分の気持ちを隠し続けてるから、もう2人だけだと、どんどんこじれてるばっかりだって思ったんじゃないかな。
だから光江さんはわざと、アタシたちの前であんなに意地悪な言い方をした。私たちを2人に介入させるためにね。で、まんまと、ともみさんもアタシも、メグさんを庇って、今、ミチさんとの対面までセッティングしている。結局、今、この瞬間までが、ぜーんぶ作戦だったのかもと考えると、ほんっと女帝って恐ろしいよねぇ」
ケタケタと声を上げたルビーの屈託のない笑みが、とても大人びて見える。いや、本当はともみも、随分前から気づいてはいたはずだった。ルビーは、その無邪気さや突拍子のない言動の奥には、物事や人の真ん中を捉えることができる鋭さがあり、自分よりもよっぽど大人だということを。
「…お前、いつから…そんなにお節介になった?」
驚きに揺れたミチの質問に、「ともみさんに教わったんですよ」とルビーは軽やかに答えた。
「え?」
不意打ちされたともみが固まると、ルビーが笑顔を大きくする。
「他人の人生は他人の人生、って感じじゃなくて、それは今言わなくてもいいんじゃない?ってことまで、ともみさんはどんどん入り込んでいくんですよ。時々怒っちゃうこともあるし不器用だけど、来るお客さんにとことんつき合える人なんです。
ともみさんのスタイルこそが、TOUGH COOKIESってお店そのものなんだなって」
だから、と言葉を切ったルビーが、メグとミチに視線を送った。
「お2人にも、そのともみさんの前で、きっちり話し合ってもらいます。私も逃がさないから覚悟してね」
にやりと唇の端を上げたルビーに、ともみの胸がドクンと強く波打った。そして、見たこともないはずの、光江の若かりし頃の面影が、なぜかルビーに重なっていく。
― ああだから、ルビーには敵わないのか、な。
胸にこみあげたざわつきの正体に、ともみは覚えがあった。それは…芸能界で何度も経験した、どんなに努力しても届かない天性の才能や存在感を目の当たりにした時の敗北感だ。
「じゃあともみさん、進行よろしく、です!」
はりきったルビーの声にともみはハッとし、既視感のある苦い感覚を打ち消すと、平静を装い話し始めた。
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▶1話目はこちら:「割り切った関係でいい」そう思っていたが、別れ際に寂しくなる27歳女の憂鬱
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TOUGH COOKIES
SUMI
港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが
その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。
そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。







この記事へのコメント
そしてこれを考えた作家さんも素晴らしい!
でも、そうだよね光江さんだってあんな風に別れさせるような事しない🥺 ともみとルビーを試すのも含めてメグミチに対する親心や優しさからなんだろうね。