「メグ、アンタは追い払っても追い払ってもしつこくまとわりついてくる羽虫みたいなもんさ。覚悟の決まらない女に、ブンブンとミチの周りを飛び回られたら、うっとうしくて仕方ない。だから駆除するんだよ。今回のカードを使ってね」
― 駆除。
ともみは自分も、「大輝を傷つけるものは徹底的に駆除する」とキョウコに言ったことを思い出した。けれど光江が発する“駆除”の威力は明らかに桁違いで、世界中を滅ぼしてしまいそうだ。
「ともみさん、ハムシってなに?」と、小声で聞いてきた(一応気を使ったつもりなのだろう)ルビーを睨んでスルーし、同情と応援を込めた視線でただメグを見守る。
「言っとくけど、その書類に書かれてることは、いくつかの国のお偉いさんたちやコネクションに借りを作って、ようやく手に入れたものだ。
アンタがどれだけ調べ続けたとしても、一生たどり着けない情報だよ。もう2度とミチの前に現れないって約束してくれるなら、そのリリアっていう女の子を助けるまでのルートと安全も確保してやるよ。だからメグ、覚悟を決めな」
「…覚悟…ですか」
ため息のように呟いたメグを、ともみは助けたいと思った。詳しい事情は分からないままだけれど、今、ここにいないミチのためにも、光江の勢いを止めるべきだという気がして。でもなんと切り出すべきなのだろうかと、最初の一言を迷ったともみのその一瞬を、でもさぁ~と、ルビーの声が呑気に越えていった。
「さっきから光江さん、いろいろ難しいこと喋ってる風だけど、結局はただの恋バナじゃん。
だったら、光江さんが口出すことじゃなくない?ほらなんだっけ、“人の恋愛の邪魔をしちゃうとゾウに踏み潰される”的なコトワザっぽいヤツもあるでしょ、ね?ともみさん」
ルビーに同意を求められたともみが、ゾウじゃなくて馬だし、踏み潰されたらホラーだよと突っ込むことができなかったのは、光江が睨みを利かせていたからではない。
― 結局はただの、恋バナ。
光江とミチとメグ。3人の絡まった関係や事情などはどうでもいいとばかりに、本質を言語化したルビーに共感したからだ。
「ともみさんもそう思ったから、光江さんらしくない、って言ったんでしょ」
「…え?」
「そもそも人って、絶対幸せにならなきゃいけないものなの?」
ルビーの視線はともみにあるのに、それはまるで独り言のように聞こえた。どういうこと?と返したともみに、ニコッと笑顔を大きくしたルビーは、光江に向き直った。
「ということで、光江さん。私たちにもう少し時間をもらいたいです」
私たち?と返した光江の表情は変わらず、その感情は読めない。
「アタシとともみさんも一緒にメグさんと考えてみるんで、みんなで頭を整理する時間をもらえないかなぁと思って。ということで…光江さん、今日は帰ってくれません?」
TOUGH COOKIES
SUMI
                港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが
その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。
そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。
              






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