「ジャズが好きなんですね、どこかいいところ知っていますか?」
けれど、もう寝てしまったのか連絡は返ってこない。
その日はそのまま、ソファで寝落ちした。
次の日、昼休みにアプリを確認すると、彼女からメッセージが返ってきた。
「あなたも?今いろいろなところを巡って探しているところ。どこかお気に入りはある?」
自然に遥斗の頬が緩む。
― ちょっとダメだったくらいで、何を凹んでいたんだろ。ここはニューヨーク。素敵な女性はいくらでもいるよな。
そこから何通かやりとりし、会うことになった。
初回のデートは、ソーホーにある『Citizens of SOHO, A Breakfast and Restaurant and Cafe』で、まずは軽くお茶でもと、彼女が指定した店で待ち合わせる。
緊張しながら待っていると、知的な雰囲気の彼女が笑顔で遥斗の方に歩いてきた。
「Hi, you must be Haruto!(あなたが遥斗ね)」
「Yes, nice to meet you, Allison.(はじめまして、アリソン)」
軽く挨拶を済ませ、コーヒーを頼むと、彼女はいきなり核心を突いてきた。
「So, tell me. Are you looking for something real, or just enjoying the New York dating scene?(あなたは本気の恋を探しているの?それとも遊び?)」
思ってもみない角度からの直球な質問に、遥斗は一瞬固まった。
― 初対面でそれを聞くんだ…。確かに、効率を好むニューヨーカーらしいな。
日本では暗黙で察するような事柄だが、彼女は聞き慣れているのか当然のように尋ねる。
戸惑いながらも「もちろん真剣な交際だよ」と答えた。
その言葉に、彼女は少し口角を上げる。
「良かった、お互い目的ははっきりさせとかないとね」
初対面から驚きのスタートだったが、二人はほどなく打ち解けた。
国際案件を抱える弁護士らしく、話題は経済から政治、ワインまで縦横無尽。
テンポも速く、物知りなアリソンとの会話は刺激的だった。
別れ際に「次はディナーね」と誘われた時、遥斗も同じ気持ちだった。
― アジア人男性はこっちでモテないって聞いていたけど、なんだ、結局気持ちが通じれば大丈夫だ。
遥斗の傷ついたプライドが、またゆっくりと形を取り戻し始めていた。
そして迎えたディナーデート。
今度は遥斗が選ぶ番だと、先輩の二宮から勧められたGreenwich Aveの『Olio e Più』というレストランを予約した。
待ち合わせ時間ぴったりに現れたアリソンは、彼女に似合うペンシルドレスに身を包み、ワインリストを広げながら言った。
「今日はあなたがオーダーしてくれる?男性にリードしてもらいたいの」
自立した彼女の口からそう言われたのは意外だったが、彼女の好きそうな赤ワインを選ぶ。
「いい選択ね、悪くないわ」
― ん?なんだろう、この違和感…。
褒められているのか試されているのかわからず、遥斗は複雑な気持ちになった。
それでも、彼女とのデートは楽しく、2軒目にはアリソンが行きたいというジャズバー『Terra Blues』に行き、心から楽しんだ。
帰りはタクシーで送り届け、別れのハグをした時に一瞬生まれた微妙な間。
― 流石に、キスをするにはちょっと早いよな…。
ぎこちなくアリソンにお礼を言うと、遥斗はそのまま自宅へと帰った。
順調に仲を深めていると感じていたが、3回目のデートあたりから、アリソンの言葉に少しずつ違和感が混じり始めた。
「女性の椅子をひくのはデートの基本よ」
「会話にもっとウィットが欲しいわ」
「もっと筋肉トレしないの?ジムは週何回?」
彼女の言葉はまるでチェックリストのようだ。







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金正恩カットかな